2024/2/23

映画『プリズン・サークル』

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シネマチュプキ田端で『プリズン・サークル』というドキュメンタリー映画を観た。随分前に公開されたもので、好評なことから同館で何度か上映されているらしい。今回も全日程完売!とてもすごいこと。急遽休館日を使って追加上映するらしい。すごい。


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「初めて日本の刑務所にカメラを入れたドキュメンタリー」ということで映画の大半は刑務所内で撮影されている。もちろんすごく厳しい制約が課されていて、映画として成立したものにできるのかかなり際どかったらしい。*1

私の感想は「日本にもこんな刑務所があるのか」という驚き。撮影場所となった「島根あさひ社会復帰促進センター」は日本の刑務所の中でも新しい方で、例えば食事は自動で配膳ロボットみたいなのが持ってきたり、受刑者は胸に着けてるICタグで監視・管理されていたり、一部の業務を民間が担っていて先進的な運営がなされている。配膳カーみたいなのは病院とかにもいるのかな?音楽流しながら廊下を走ってて、それだけでちょっと驚いた。

そんな中で一番の目玉というか、ここだけの取り組みなのが「TCプログラム」という教育。ここで受刑者は民間の指導員のもとでワークショップに参加して、「自分の心に向き合う」「自分の気持ちを言葉にする」ことを繰り返し学んでいく。映画の中では4人がフィーチャーされていて、TCプログラムでそれぞれがどう変わっていくかを撮影しているんだけど……すごい。これは本当に見て欲しいんだけど、簡単に見れる機会がないのでもどかしい。

映画の中で受刑者は顔にぼかしが入っているけど、よくテレビであるような声の加工はされていない。なんならぼかしもそんなに濃くないから、「こういう表情で話しているのかな」と想像がつく。だからすごく人間で、どこにでもいそうで、刑務所に入っているのが信じられないような人もいる。罪状を聞くとニュースでよく見るようないわゆる「闇バイト」みたいな人もいれば、窃盗だったり、詳細は伏せられててわからないけど傷害致死ということで誰かが亡くなっていたり。「金に困って叔父の家に盗みに入り、バレて殺そうとした」なんて人もいた。遺族や被害者たちがいる。人生めちゃくちゃにされた人たちがいる。

TCプログラムで目指す更生は、刑期を終えて彼らが社会に出た後、犯罪を繰り返さないこと。そのために徹底的に彼らの心に向き合う。受刑者同士でたくさん話す。自分がやったことを語り、他者がやったことを聞く。その時の気持ちを洗い出す。事件に至るまでの背景を、こども時代に遡って共有する。講師方はもちろん、受刑者同士で話すことがこんなに変化をもたらすのかって驚いた。本当の意味でお互いに「わかるよ。」って言い合える。時には厳しいことも言う。そこでしか気付けないことがある。

傷害と窃盗で捕まった真人さん(仮名)は、TCプログラムに参加しても長らく「窃盗に対する罪の意識がない」と言っていた。「そこに財布があると『あ、財布だ』って盗っちゃう。盗った理由は全部後付けなんすよ」「悪いとは思わない。盗られた人が困るとも思えない」「俺も自転車とか傘とか盗られるの普通だし、なんとも思わないし。だったら俺が盗るのも変わらない」見ながら頭を抱えた。真人さんの声でわかる。本当に、「なんとも思っていない」。聞いてるこっちも、もはや「悪気が無くてムカつく」という感情にすらならない。刑務所に入ったし、他人のものを盗んだらいけないってことはなんかこう「知識としてわかっている」けど本当に……それ以上が何も無い。この人が窃盗を繰り返さないようになるにはどうしたら良いのかわからなかった。「お客様の中に窃盗被害に遭われた方はいませんかーー!!!」って思った。

しばらく経ってから、カメラの前で真人さんが涙を流した。受刑者の中に、窃盗被害がきっかけで犯罪に走り、ここに来たという人がいた。仕事道具を盗まれて生活に困り、自暴自棄になった末の犯行。真人さんはその人から話を聞いて初めて、自分の窃盗行為が誰かの人生を壊した可能性に気付いた。「大変なことをしてしまった」と肩を震わせている姿は、まるで別人だった。

健太郎さん(仮名)は、お金に困った末に叔父の家に盗みに入った。犯行がバレて叔父に怪我を負わせ、逮捕されたことで婚約者と子どもを失った。子を失ったというのは、婚約者が健太郎さんとの子どもを中絶したということだった。

TCプログラムの中で、実際の事件を題材に受刑者がロールプレイをするグループワークがあった。健太郎さんは自分の事件を、加害者本人としてロールプレイした。他の受刑者は叔父、叔母、婚約者として健太郎さんと話した。(その場面が予告編にも一部流れている)「どうしてうちだったんだ」「犯行の下見としてうちに遊びに来ていたのか」「どうして相談してくれなかったんだ」「相談するのが恥ずかしいって、盗みに入る方がよほど恥ずかしいことじゃないですか」言葉多く、詰める叔父。「身内にあんなことをされて、あれから怖くて眠れなくなった」と叔母。正直、見てるこっちも息が詰まる。迫真のロールプレイだった。途中、涙を流し始めた健太郎さんに叔父役が「それはなんの涙なんですか」と聞いた。「自分の辛さ以上に、被害者の人は今もずっと辛いんだ」 ロールプレイが終わった後も、そのことがずっと頭から離れないと語っていた。

これは映画のほんの一部始終で、他にも刑務所を出た後のTC参加者の集いとか、違う場面を見られる。どなたが言ったのか忘れてしまったけど、別の刑務所から移送されてきたTC参加者が「ここに来て初めて人間扱いしてもらえた」「(講師は)最初は裏があると思ったけど、目を見て話してくれて名前を呼んでくれて本当に自分に向き合ってくれているとわかった」「これまでは日々の刑務に必死で、被害者のことを考えることなんて出来なかった。今やっと自分がやったことに向き合える」と話していた。人間扱いされず、抑圧され心無いままただ「刑期」を終えるだけでは何も変わらないのでないか。そう思うと、40,000人のうちたった40人しかTCプログラムに参加できないのはあまりにも少なすぎると感じた。もっと知られて、もっと広まって欲しい。

 

 

そもそもこの「TCプログラム」が日本で始まったきっかけは、この映画を製作した坂上香さんの別作品だった。アメリカのTCを撮影した『ライファーズ』という作品があり、それを見た日本の刑務所関係者が導入を決めた。私は、それが物凄いことだと思う。日本の刑務所で始めるの、すごくすごくすごくすごく大変だったと思う。そして坂上さん自身、「日本の刑務所でやっても無理」と思っていたらしい。「日本でやっても表面的なもので、人間的成長を促す場所にならない」と。それが、TCプログラムが導入されてから刑務所に招かれて現場を見て、「嘘でしょうと何度も目を疑った」。坂上さんが驚くぐらい、現場が本気だった。

 

映画はなかなか見られないと思うし配信も無いので(すごく残念!!!)上に貼った同題の本を読んでもらうのが一番映画を見るのに近いと思う。東京の人はシネマチュプキの追加上映に間に合うかな……。各地で時々こうして企画上映されてるらしい。今回見れて良かったな。

 

こうして書いている間も、自分のこうした感想が誰かを傷つけたり、嫌な気持ちにさせているかもしれないと迷う。上手く伝わるかわからないけど、私は犯罪を犯した彼らを許したわけではなく、「刑期を終えたら出て来ることに変わりはないのだから、再犯の可能性を下げるためにこうした取り組みは絶対に必要なのではないか」と思う。実際再犯率という数字で効果は表れているし、短時間の映画を見ただけでも「人の変化」を目の当たりにした。このプログラムは多分、巡り巡って私たちに恩恵がある。だから、別に映画見たり本読んだりしなくてもいいから「こういうことが行われている刑務所があるんだ」ってことを頭の片隅に置いておいてほしい。いつか「TCプログラムをもっと広めよう」みたいな機運が上がるかもしれないので、その時に「そういえば聞いたことあるな」って思い出して、考える材料にしてもらえたらもっと嬉しい。

それでは!読んでくれてありがとう!

*1:パンフレットに書いてあった。法務省をたらい回しにされたり、所長の異動で協力的でなくなったり