2025/6/1

あまりにも記憶に残したくない出来事だったので、日記は書かずに行かなかったことにしようかと思っていた。でも、忘れようと思っている自分とは裏腹に何度も何度も思い出して「どうすればよかったのか」とか「どうしたら今後ああいうことを回避できるのか」とか、色んなことをずっと考えてしまっている。

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試合時間中(約三時間)ずっと後ろの人たちの会話を聞いていた。聞かざるを得なかった。喋ってる方の立場だとわからないかもしれないけど、後ろの人の会話って隣の人以上に聞こえる。割と試合序盤にこれを言われて、それからは何も楽しくなかった。ずっと後ろが気になって、また何か言われたらどうしようと思って、スマホを出して画面を見られるのも嫌だったし、手拍子も応援歌も身が入らなかった。今すぐ別の席のチケット買って移動しようかとも思った。試合終了までは見たけど、一刻も早く離れたくてヒーローインタビューも見ないで帰った。楽しみにしていた日曜日、せっかく良い試合でベイスターズも勝ったのに帰りの電車はあいつらへの呪いの言葉しか出てこなかった。SNSにちぎって投げて、フォロワーさんに慰めてもらうことでギリギリ自尊心を保った。

翌日も仕事しながらずっと「どうしたら良かったのか」と「今後どうしよう」を考えた。これまで行った試合のことを思い出して、やっぱり土日は客層が違うんだとか、今後は外野席の方がいいんじゃないかとか、日陰になるあの席が好きだから取ったのにとか、色々色々考えてるうちにふと、最近読んだ記事のことを思い出した。ニューヨークタイムズのオピニオン欄にあった、「一人で外食する女性を憐れむな」という記事。アメリカの女性が外食時に曝されている圧力と偏見は、これかと思った。

 

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一人で食事をするのが怖かったことはありません。外食が大好きで、レストランのニュースレターを書いているほどです。友達を誘うのが面倒なので、結局は他の人よりも一人で過ごすことが多いです。一人で座っていると、レストランの従業員から無料のドリンクを勧められたり、「日曜の夜に一人でステーキを食べているなんて、素敵ね」と感嘆と同情が入り混じった言葉を言われたりしました。

哀れみや「もういい加減にして」という感情は、私をいつも困惑させます。一人でぶらぶらと外を歩き、クレジットカードを持って席に着くことが、勇気の証と言えるのでしょうか? 社会は未だに、女性は常に社交的な生き物であり、一人でいるべきではないと考えているようです。しかし、女性は自立した生活を送るために励ましを必要としません。誰かが一緒に外へ出てくれなかったというだけで、まるで迷える子羊のように扱われるのは、子供扱いされるようなものです。女性が一人で食事をすることを、恥ずかしさを我慢しながら行う勇敢な行為と見なすことの不合理さを認識することが重要です。女性が一人で食事をすることは、勇敢でも悲しいことでもありません。

私が男だったら、あんなことを言われなかったのに と思った。女は一人で野球を見に来ない。休みの日を一人で過ごさない。誰も一緒に来てくれないなんてかわいそう。そういう偏見を直接ぶつけられて面食らった。驚いて、腹が立って当然だった。

私に偏見をぶつけたあの人は、”前の奥さん”の愚痴を話していた。「3月に一緒に野球を見に行って、寒いから途中で帰ろうと言われた」ことをありえないと言っていた。チケットを貰って自分はずっと楽しみにしていたのに、途中で帰るなんて! そうやって「野球を見ないで帰ろうとする女」の悪口を言い、同じ口で「一人で野球を見に来ている女」を馬鹿にした。そのことの矛盾に気付くわけがない。自分が馬鹿にしたソロ観戦女は、「野球観戦を楽しみにしていた自分」と同じ存在なのに。

 一人で食事をしている男性に、シャンパンを一杯無料で提供するなんて想像できますか? あるいは、日曜日の夜にステーキを一人で食べる方法を見つけたなんて、と感心するでしょうか? レストランのオーナーが、この男性に一人で世界へ飛び出すよう勧める必要を感じるでしょうか? 男性は個人であり、女性は完全に共同体である。女性が一人で食事をすることに対する社会的な偏見は、男性は公の場を、女性は私的な場を占有する、ということを私たちに教えてくれているようです。一人で食事をすることは、こうした世界観に抵抗し、女性の自立に関する社会的な想像力を広げることを願っています。女性は男性と同じくらい複雑で、つまらない存在なのです。

私は今後も、一人で野球を見に行かざるをえない。どんなに気を付けて席を選んでも、また同じような目に遭うかもしれない。それにどれぐらい自分が耐えられるかもわからない。でも今は、自分が浴びた言葉は「私個人に向けられた嘲笑」ではなく「女性に対する偏見」だったと思うことで、ギリ折られずに済んだ。ありがとうニューヨークタイムズ。アメリカの女性たちもこんな思いをせずに外食できますように。