BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there 2023.5.28 さいたまスーパーアリーナ

 

BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there
2023.5.28@さいたまスーパーアリーナ セットリスト

01. アカシア
02. ダンデライオン
03. 天体観測
04. なないろ
05. 透明飛行船
06. クロノスタシス
07. Small world
08. 魔法の料理 ~君から君へ~
09. プレゼント
10. 新世界
11. SOUVENIR
12. Gravity
13. 窓の中から
14. 月虹
15. HAPPY
16. ray
17. supernova
encore
18. embrace
19. ガラスのブルース
20. 宇宙飛行士への手紙

 

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どんなに言葉を尽くしても、この日の感情を言い表すことはできない。思い出すだけで今も涙が止まらないし、どうしてそうなってしまうのか説明が難しい。語るのが恥ずかしいし、曝け出すのが怖い。でも私には他に表現方法がないし、表現する場もないし。ここでかっぴらいて見せない限り、感情の冷凍保存なんてできない。

 

今年の頭、ブラッシュアップライフというドラマにドはまりした。アラサーの友人たちと一緒に夢中になった、それはそれは面白いドラマだった。ほぼ同い年の主人公は交通事故で亡くなったあと、よりよい来世(人間)に生まれ変わるために人生を繰り返しやり直す。そんな主人公を見て共感したことの一つに、彼女が「もっと長く生きること」を主たる目的としていない点があった。彼女が不満だったのは死んだ後の「来世」がオオアリクイや鯖だったりとちょっと微妙な生きものになることで、「もっと長く生きたい」「やり残したことがあるからやり直したい」というわけではない。周回を重ねるうちにだんだんそれも変わっていくのだけど、最初のうちはそんな淡白さを自分と重ねた。

私も、ブラッシュアップライフの主人公のように、突然「来世への受付」に飛ばされたとしても「今世への未練」は行動動機とならないだろう。タイタニックのような沈みゆく船に乗ったとしても、救命ボートは別の人に譲るだろう。そういううっすらと根底にある、人に言ったら「そんなこと思っちゃだめだよ」と言われるような「自己」への執着の無さ、己を誰かと比べたときの評価の低さ。乱暴に言えば、自分を「どうでもいい存在」と思っているところ。

それらを全部知っていたように、BUMP OF CHICKENの音楽は隠していた心の奥の奥の奥までやってきた。それが先日のツアーファイナルだった。どうしてそんなことができるのか。どうして「いつも」そうなのか。いつも不思議でたまらないのだ。

 

BUMPのツアーは、バンドだとよくある方式で2daysの一日目と二日目で一部セットリストが変わる。だから私が入ったツアー初日の有明公演と、ツアーファイナルのさいたまではセットリストが随分と違った。それに加えて席がスタンド最後列からスタンドほぼ最前列になったこともあり、本当に同じツアーなのかと思うほど、瑞々しく全てが新鮮だった。「アカシア」のイントロのキラキラした音とともにメンバーが入場し、花道を歩いた先のセンステまでやって来たこと。下からドラムセットがせり上がって来た時の「まさか!」という驚き。BUMPのライブでは全員に配られる、制御式LEDリストバンドが一斉に黄色に染まった「ダンデライオン」。リストバンドは「なないろ」では客席を七色の虹に変えた。あまりにも綺麗で、何度も向かいのスタンド席を見上げた。

BUMPの曲は、上げていた手を下ろしてじっくりと聴くような曲も全て好きだ。隣の人が開演前に「今日聴けたらいいな」と言っていたのが聞こえた「Small world」は、「隣の人喜んでるかな~」「改めて良い曲だなぁ」としみじみ思った。続く「魔法の料理」はやっぱり泣いてしまって、泣いている最中に「メソメソすんなって」と笑って歌うのが本当にずるい。その次が「プレゼント」なのはもっともっとずるい。

お尋ねしますこの辺りでついさっき 涙の落ちる音が聴こえた気がして

この歌い出しで「Opening!!?」と心臓止まりかけた。まさかライブで聴く日が来るとは思わなかった。Living Deadの歌詞カードのイラストまで、鮮明に思い出せる。

 

こうした昔の曲も刺さるけれど、さいたまに向けて一番楽しみにしていたのは、最新曲の「窓の中から」だった。

youtu.be

初めてこの曲を再生したとき、最初から最後までずっと衝撃を受けていた。「自分はまだ、こんな風に音楽と出会えるのか」という驚きと感動で、訳も分からず涙が出た。

こんな音楽体験をすることが出来るんだ。好きになって20年近いバンドの新曲で。なんて幸せなことだろう。

 

私が楽しみにしていた「窓の中から」は、恐らく誰もが楽しみにしていた曲で、それをメンバーもわかっているようだった。まるで「お待ちかねだよ」という風に予告して、「どんなパートを歌っても良い、主旋律でもコーラスでも好きに楽しんでくれ」と言った。そしてその言葉通りに、皆思い思いに歌って、聴いて楽しんだ。ずっとずっと参加したかったから、この曲の一員になれて本当に嬉しかった。「この曲作って良かったな~…ンフフ」と心底嬉しそうに藤くんが笑って、そんなことを聴くのは初めてで。私たちの喜びは過不足なく確かに伝わっていたと感じた。

 

***

 

楽しみにしていた「窓の中から」が夢のように楽しくて、フルコースのメインが終わったような気持ちになっていた。きっとこの先の未来で、今日を思い出す時は真っ先に「窓の中から」を思い浮かべるのだろう。そう思っていたのが、たった数分後に塗り替えられた。

「生まれてきたからこんな夜があるんだぜ」

「HAPPY」を歌っている最中だった。ステージの端まで移動していた藤くんが、ハンドマイクを持って会場を見上げながらそう言った。とてつもない衝撃だった。

「君も俺も、生まれてこなければこんな日はなかったんだぜ」

「君が、君自身のために歌ってくれ。大丈夫、俺が手伝うよ。27年もステージで唄ってきたんだから任せろ」

この曲は、「ハッピーバースデー」を何度も繰り返す。その部分を歌って欲しいと藤くんは言っていた。

「生まれて来てくれたから君に出会えた ありがとう」

これを「歌う」と表現しても良いものか、どちらかというと「絞り出す」の方が近いのではないか。そんな酷い有様になりながら、必死に「ハッピーバースデー」を繰り返した。心臓の一番奥にある、絶対に誰にも触れさせたくないところにBUMPの音楽は容易くやって来る。

どうせいつか終わる旅だ 僕と一緒に歌おう

こんな夜があるから。こんな夜があるなら。

Happy Birthday, HappyBirthday, Happy Birthday...

 

***

 

さいたまスーパーアリーナからの帰り道、BUMPの公式アカウントから「be there」というアプリをローンチしたと発表があった。一人一人の宇宙船というコンセプトからしてBUMPらしさ全開なのだけど、このアプリの機能の一つに「LIVE MUSIC」というものがある。そこでは24時間365日BUMPのライブ音源がストリーミング再生されていて、「どんなにしんどくて何もできない時でも、スマホを数回タップすれば音楽が届くように」と設計されている。

 

「なぁ、今日はどうやってここまで来たんだ?

昨日までどうやって生きてきた? 明日からどんなふうに生きていくんだ?

俺はそれを全部知ることができない。だからもどかしいんだ」

「俺は君の日常にお邪魔することはできないけど、音楽ならそれができる。

君が望んでくれるなら、学校でも会社でもどこでも、君の日常に 俺らの音楽は一緒にいられるんだ」

 

 

CDやMDで聴いていたあの頃と同じように、息苦しい夜は画面をタップして宇宙船へ乗り込む。そういう夜を繰り返しながら、今日も明日もその先も BUMP OF CHICKENとともに生きていく。、