原作のない舞台「TRUMP」に夢中になっている話 #おたく楽しい

 

私は演劇に詳しい訳ではない。好きな舞台俳優がいるというわけでもない。しかしここ1年、本気で『作品』として惚れ込み、心酔し、この作品が続く限り足を運び続けようと思っている舞台がある。

それが、完全オリジナル舞台『TRUMP(トランプ)』シリーズ。

TRUMPに熱狂する楽しさを伝えたい。伝えて、どうかどうか興味を持った人には見てほしい。こうやって私を駆り立てるのは、TRUMPが演劇作品ゆえ、『お前ら絶対好きだろ!!?!!?』という層にイマイチ届いていないのがもどかしくてもどかしくて仕方ないのだ。TRUMPは、二次元おたくにこそ刺さるのに!!!!!!!

 

◆TRUMPシリーズとは

TRUMPシリーズとは、末満健一さんが脚本/演出を務める、完全オリジナル舞台の連作です。まず末満(すえみつ)って誰やねんという疑問に答えますが「舞台K」や2016年公演予定のストレートプレイ版「刀剣乱舞の脚本演出を手掛ける人です。少しとっつきやすくなりましたね。

 

2015年現在、シリーズ作品には『TRUMP』『LILIUM -リリウム 少女純潔歌劇-』『SPECTER』の3作があり、中でも『TRUMP』は2009年の初演の後、役者を変え何度も上演されているシリーズの根幹を担う作品です。なんか難しいこと言っちゃいましたが、今伝えたいのは

・現在TRUMPシリーズには3作品あり

・その1作目のタイトルがTRUMP

・LILIUM、SPECTERは同じ世界観で別の物語

・だが登場人物が一部重なるなど、完全に別とは言い切れない

ということ。

3つの作品はそれぞれ作品として独立しており単体でももちろん楽しめるんですが、全ては『TRUMPサーガ』という大きな作品の中にあり、シリーズを通して見ることで「ええええあれはそういうことだったの!?」とか「お前はあの時のおおおおお」とか、点と点が線でつながって爆発することが多々あります。楽しそうでしょう?楽しいんですよ。

 

 

◆で、TRUMPってどんな話?

TRUMPシリーズの世界は、人間と吸血種(ヴァンプ)が共存する世界。ヴァンプはその昔不老不死だったけれども、今は不老不死の力を失い人間と同じように死ぬ。しかし始祖の吸血種である「TRUMP(TRUE OF VAMP)」だけは不老不死のまま、何千年という時を生き永らえている…という感じです。めっちゃくちゃ厨二ですね。一回覚えてしまえばTRUMPパロとかすごい捗ると思う!

 

以下、用語解説でもう少しTRUMPの世界を説明します。

繭期(まゆき) :人間でいう「思春期」のことで、この時期の若いヴァンプは酷く情緒不安定です。繭期のヴァンプは扱いにくく、人間と衝突して問題になっていたため、ギムナジウムクラン)に隔離して安定した大人のヴァンプになってから社会へ出ることになっています。このクランが舞台TRUMPの舞台です。

イニシアチブ:ヴァンプがヴァンプを噛むと、噛んだものと噛まれたものの間に主従関係が生まれます。噛まれた者は噛んだ者の言いなりです。ピンと来る方もいるかと思いますが落ち着いてください。こういった力は往々にして悲劇を生みます。

 ダンピール:TRUMP用語というよりヴァンパイアものではあるあるですね。ヴァンプと人間の間に生まれた子供です。ヴァンプでも人間でもない半端な存在なのでTRUMP世界では忌み嫌われています。

 

こういった用語は劇中でも説明があるので別に覚えなくても大丈夫です。ああこんな感じの世界なのね、ってわかって貰えたらOK。

 

◆私とTRUMP

私とTRUMPシリーズの出会いは、シリーズ2作目の『LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-』でした。というのもこのリリウム、実はモーニング娘。スマイレージ(現アンジュルム)とハロプロ研修生で上演した、オールキャストハロプロのミュージカルなんです。

で、私はモーニング娘。の大ファンで、中でも小田さくらちゃんという子が好きで、「推しの初めてのミュージカルなんだから行かなきゃね♪」という軽い気持ちで行きました。そしたらもうとんでもない目に遭った。

確かにキャスト目当てで行ったのに、そこにあったのは私がおたくとして大好きな厨二的世界劇的に美しい悲劇で、あまりにも引き込まれ、圧倒され、放心してしまい、カーテンコールを迎えても拍手が出来なかった。しかもそれは私だけではなく、劇場全体がそうだった。

静々とお辞儀をして去るキャスト。静まり返った客席。一拍の間を置いて「え、終わったの?」とやっと頭が理解して沸き起こる拍手。後に末満さんはリリウムのオーディオコメンタリーで以下のように語っています。

初日の観客のリアクションがすごい衝撃的で。全く拍手が起こらないの。どう受け止めたら良いんだって困惑している状況が、この作品にとっては賞賛だなって。(略)お客さんが拍手もできないぐらい衝撃を受けてる芝居をいつかしてみたいなと思ってたら、それが今回リリウムで叶った。

本当に、あの夜の衝撃は今でも忘れない。あんな舞台は初めてだ。

 

 

 

 こうしてTRUMPの世界に出会った私は、次にDステ版TRUMPをDVDで見ました。   

Dステ 12th「TRUMP」 TRUTH [DVD]

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Dステ 12th「TRUMP」 REVERSE [DVD]

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 あれ?なんで2種類あるの?タイトル横の「TRUTH」「REVERSE」って何?

 そう聞きたくなったあなた、実に良い質問です。誰もがTRUMPを知った時に通る道、「バージョン違いって何や」問題です。実はこのTRUMPという作品、主要キャラクターにはそれぞれ対になるキャラクターがいて、その対になるキャラ同士演者を入れ替えて「TRUTH」と「REVERSE」というバージョン違いになっています。なんのこっちゃだと思いますが、ジャニーズでたとえるとシンメがいっぱいいるってことです。シンメがいっぱいいて、立ち位置と歌割をシンメ同士入れ替えてバージョン違いにしてるってことです。二次元で例えるとスザクとルルーシュです。まどかとほむらです。中の人が入れ替わっていると想像してください。

さてこのバージョン違い、私はこの時点では「●●くんが演じる●●が見れるなんて~><」っていう役者ファン向けのサービスだよね?としか思ってません。なので「脚本変わらないならどっち見ても一緒でしょ」とTRUTHしか買って見てませんでした。後にこのTRUMPシステムを舐め腐った態度は他ならない自分によって叱責されるのですが、それについてはおいおい。

 

リリウムとTRUMPを知った頃、朗報が私のもとに届きました。シリーズの新作、SPECTERの上演が決定したのです。 

 女子だけのリリウム、男性だけのTRUMPと違い今回は男女混合キャストです。メインキャストは関西の劇団Patchというところで、その影響か大阪のみの公演でした。仕方ないので東京から大阪に行きました。キャストファンでもないのに。(しかも翌日がNEWS名古屋だったので大阪→名古屋という超強行スケジュール)(笑い話です)

このSPECTERは末満さんが「時系列的にはリリウムの後だよ」と言っていたのを信じて見に行ったんですが完全に嘘でした。許さない。これは時系列的にはTRUMPの前です。TRUMPに出て来るガ・バンリが主人公です。単体でも作品として楽しめますが、SPECTERだけを見た人と私のようなTRUMPを踏まえて見た人とで終わり方の印象が全く違う。そんな感じの舞台です。私は終わった瞬間「すえみつ………」と頭を抱えて動けなくなりました。まじ絶望はんぱない。

 

 

さて。リリウムが2014年の6月、SPECTERが2015年の3月。一年かけて良い感じに繭期を拗らせている私のもとに、とんでもないものがやってきました。

 

 

◆TRUMP 2015

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ああもうキービジュアルだけで最高…。

そう、なんとこのタイミングでシリーズの根幹である「TRUMP」が再再再演されたのです。ちなみにここに映っているのは主演の高杉真宙さんと早乙女友貴さん、Dステに続き2度目のTRUMPである陣内将さん、武田航平さんです。あとここに写ってないけど、ハロオタなら山本匠馬さんにピンと来る方もいるんじゃなかろうか。諸悪の根源、脚本演出の末満さんも自ら出演してます。

文字で見てもピンと来ないよね。ゲネプロの映像があるので貼ります。

 


「TRUMP」【ゲネプロ(舞台稽古)】

 

ごめん2:09に衝撃映像あるけど見逃して。

あと中央にいるめっちゃ貴族でめっちゃすごくてめっちゃ偉い人、末満さんだから。

TRUMPは通して見ると超絶シリアスですが前半はギャグもちょいちょいあります。多分ギャグがないと演者があまりのヘビーさに精神的にやられてしまうので、それはそれとして見るのがコツです。まあ物語が進むにつれ笑いたくても笑えなくなるし…。観劇2回目以降はギャグが清涼剤、ほっと一息吐くところです。2015版はテンポも良いし!

 

この映像で注目して欲しいポイントは色々あるんですが、その前にまた例の「TRUMPのキャスティングシステム」について。このゲネプロ映像は「TRUTH」なんですが、「REVERSE」では役者が入れ替わります。

チケットを取る時、私は「どうせ見るなら両方見ておくか」という軽い気持ちで、昼公演で「TRUTH」、夜公演で「REVERSE」が見れる日を抑えました。

そんな軽い気持ちで行った結果、どうなったか。

多少誤字ってますが当時の熱量だけは伝わるでしょう。正直に言おう。私はTRUMPを侮っていた。演劇を侮っていた。 舞台ってすごい。

 

ちょっと具体的にどこがどう入れ替わるのか言おう。最初に見てもらったこのキービジュアルはわかりやすい。

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手前にいる主演の二人と、後ろにいる二人がそれぞれ入れ替わる。

 

更にさっき貼ったゲネプロの映像で言うと、0:49に出て来た寡黙な武闘派・ラファエロお兄様と、そのお兄様に殴られてるいけ好かないおかっぱ・アンジェリコが入れ替わる。全然想像つかなくないですか?????タイプ違うじゃん????入れ替わったところで笑っちゃうと思うじゃん???????ところがどっこい、役者ってすごいんです。

 

TRUMPは公演ごとに役者が入れ替わる。入れ替わると、その役者に合わせてキャラクターも変わる。そんなこと許されるのか? 許される。だってこれは原作がない舞台だから。ここに不正解はなく、イメージ違いも無いから。そこがとんでもなく面白いのだ。

TRUTHに続いてREVERSEを見るとき、果たして「同じ内容の舞台を連続で見て楽しいのか?」と思った。「先に見たTRUTHのイメージが強すぎて、REVERSE『無理している』ように感じてしまうのではないか?」と思った。

でもいざREVERSEが始まったら、そんな杞憂はすぐに吹っ飛んだ。TRUTHとREVERSEは全然違うし、そこが物凄く面白い。おたくは、その違いを熱っぽく語りたくなってしまう。

 

たとえば先に映像で見せた寡黙な武闘派・ラファエロお兄様は、REVERSEだと神経質そうなインテリお兄様になる。いけ好かないおかっぱ・アンジェリコはREVERSEだとおかっぱじゃないし、もっとガキ大将で頭が悪そうになる。

さらに0:33に登場する転校生のガ・バンリはTRUTHだと意味深な一匹狼っぽいけど、REVERSEじゃドレッドヘアだし「こう見えて人見知りなんでぇ、俺に話しかけないでくだぱーい」って感じで意味深というか超絶胡散臭い。

普通一人のキャラでこんなに性格が違ったらキャラ崩壊だと叩かれるはずだ。それが起こりえない、「不正解がない」この世界は実に寛容で心地良くて面白い。

 

 

さて、ここまでTRUMPのキャスティングシステムを熱く語ってしまったけれど、最後にTRUMPシリーズの魅力を3つ伝えたい。 

◆TRUMPシリーズのここが最高

①音楽

聴けば分かる。極上なんだ。


『SPECTER』Original Soundtrack 試聴

 

②衣装 

 見ればわかる。至高なんだ。

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フリル!レース!ゴシック!

特にリリウムは、このドレスで踊るからターンの度にスカートがさながら花のように広がる。たまらない。

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③脚本

結局のところ、TRUMPシリーズの一番の魅力は骨太で緻密で巧みな脚本にあると思っている。特に舞台TRUMPは、同じストーリー設定を小説や漫画、アニメ等のほかの媒体でもやろうと思えばやれるし、それでもある程度面白いとは思う。ただ、「舞台でしかできない仕掛け」が施されているTRUMPを知っていると、きっと他の媒体は見劣りしてしまう。その仕掛けとは何なのか?そこはぜひ見て確かめて欲しい。ストーリーは、コードギアスまどかマギカが好きなアニオタは絶対に好きだ。「ジェットコースター型のエンタメ作品」が好きなら好きだ。一緒に振り回されよう。

 

 

◆永遠の繭期の終わりに

どうですかTRUMPおたく。楽しそうでしょう? 超楽しいです。

楽しそうだなと思った方は是非、DVDで良いのでこの世界へ飛び込んでみてください。そりゃ生で観劇する方が1億倍良いんですが、物語を楽しむならDVDでも充分です。というかDVDしか手段がないんだから妥協してください。

ちなみにおすすめの順番はTRUMP (2015)→LILIUM →SPECTER。TRUMPはDステ版もDVD化されてますが、今までになかったセリフやシーンを加え、全体的にブラシュアップされている2015年版を個人的には薦めたい。2016年春にDVD発売予定なので、詳細が決まったらここに加筆します。

(2017/7/12加筆)すいません忘れてました!!!!!!NAPPOS ONLINEで絶賛発売中です!!!!!!!

 

まあ、初めて生で観たTRUMPだから2015年版を薦めたいっていうのはある!とっても!

 

 

以上、脚本目当てで行ったDステの記念品プレゼントじゃんけん大会で空気を読めず優勝してしまい、キャストに「誰のファンですか?」と聞かれ「脚本の末満さんです…」と答えて劇場の800人を驚愕させた繭期患者がお送りしました。

 

その節は!!すみませんでした!!!!!!!!

 

(この記事は、主催のAdvent Calendar #おたく楽しい への寄稿文でした。) 

www.adventar.org

 

 

 

おまけのリンク集

TRUMP 2015年版TRUMPの公式サイト

【ゴシック・ミュージカル】LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-【まとめ】 - NAVER まとめ リリウムのまとめ

Patch stage vol.6『SPECTER』劇団Patch Official site 劇団Patch内の「SPECTER」紹介ページ

LILIUM感謝祭 短編演劇「二輪咲き」 - Privatter リリウム感謝祭で上演された短編演劇「二輪咲き」(映像化未定)の文字起こし

 

Dステ 12th「TRUMP」 TRUTH [DVD] Dステ 12th「TRUMP」 REVERSE [DVD] 演劇女子部 ミュージカル「LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-」 [DVD] Patch stage vol.6 「SPECTER」 [DVD]