2025年11月に読み終わった本


2025年11月に読み終わった本まとめ

『アカシアの朝』櫻木みわ

アカシアの朝


朝日新聞ポッドキャストの読書会企画のために一気読みした。主人公は15歳の女の子。韓国の老舗芸能事務所の練習生としてデビューを目指すため、渡韓したところから始まる。友達の家で読んだので、「今韓国に着いたところ」「今他の練習生と出会った」「社長に呼び出されてデビューするかもって」と逐次報告しながら読んだ。韓国文学を読んでいると同じく、物語の中で垣間見える文化の違いが面白かった。『イン・ザ・メガチャーチ』はファンや運営などアイドル(俳優)の周りの人間だけを描いたけど、『アカシアの朝』は逆にアイドルとアイドルがプライベートで接する人間だけを描いていた。日韓の違いもあるし、読み比べても面白いかもしれない。在日コリアンのことなど、社会的なテーマも触れていたのでK-POPアイドルが好きな中高生にぜひ読んで欲しいと思った。この本を読んだら次はこれ!みたいに勧めたい本が複数あるので、最初の入り口となる良い本だと思う。

 

『らんたん』 柚木麻子

らんたん(新潮文庫)

毎日お風呂で湯船に浸かって一日十ページずつ読んだ。700ページ以上あるので結構かかったけど、毎日す~っごく幸せだった。十ページでこんなに面白いのかと毎日感動。朝ドラみたいに壮大で、あたたかくて登場人物たちが皆生き生きとした物語だった。
主人公は恵泉女学園を創立した河合道先生。これを読んだら人生やり直して恵泉に行きたくなる。とにかく道先生が素敵すぎる!!道先生の生涯を描いているので、教科書で知ってる名前が突然出てきたり、「この人ってもしかして……」と思うとその人だったり、道先生が出会う人たちにいちいち驚いた。知らなかった人も、名前で調べるとWikipediaが出てくる。みんな生き生きとしていて、一生懸命に生きていた。何度も何度も励まされた。この本を2025年の一冊にしてもいい。12月になったら柚木先生にクリスマスカードを贈る。

 

『かわいそうだね?』 綿矢りさ

かわいそうだね?

綿矢りさ作品を読むの二作目。めちゃめちゃ面白い。痛快。綿矢りさの切れ味すごすぎる。同じ時代に綿矢りさがいて良かった~~~!!!って思う。綿矢りさがこのセンスを小説で発揮してくれて本当に良かった。だいすき。二編収録されていて、一作目は樹理恵・アキヨ・隆大の三角関係が無茶苦茶で面白い。樹理恵が面白すぎる。英会話教室のシーンとかほぼコントで肩震わせて笑った。二作目の「亜美ちゃんは美人」も主人公が面白かった。人の容姿を例えるのが上手すぎる。これってつまり綿矢りさがめちゃくちゃ面白いってことでは?エッセイとかあるのかな?

 

『ベアテ・シロタと日本国憲法』ナスリーン・アジミ ミッシェル・ワッセルマン

ベアテ・シロタと日本国憲法――父と娘の物語 (岩波ブックレット)

らんたんを読み終わったら読もうと思ってた。日本国憲法の草案に男女平等を盛り込んだ女性。なんと当時22歳!父親のレオ・シロタの半生とともに、彼女がなぜそのような大役を果たしたのか、その後日本を離れてどんな仕事をしたのかが読める。なんか……ベアテの人生以上に、お父さんであるレオの人生が辛くって、申し訳なくって……;; 海外での輝かしいキャリアを捨てて日本の音楽界に貢献してくれたのに、戦争が始まるまでずっと日本を信じてくれていたのに、戦時中シロタ夫妻に日本は本当に酷いことをした。ごめんなさいごめんなさいって思いながら読んだ。ベアテが憲法に携わった部分は思ったよりも分量は少なく、それよりも戦後に東洋文化をアメリカで紹介したことの方が多く書かれていた。憲法草案は九日間のできごとで、その後の方がずっとキャリアが長いので当然のこと。ベアテが書いた案が全部盛り込まれていれば、日本の憲法は世界でも類を見ないほど先進的で平等だったというのがなんだか悔しかった。そのまま採用されて欲しかった。案を削いだ政治家たちが憎い。

 

『ミーツ・ザ・ワールド』 金原ひとみ

ミーツ・ザ・ワールド (集英社文庫)

金原ひとみ作品を読むの二作目。めっちゃ面白いじゃん!!と思って友達に話したら、彼女は金原ひとみをたくさん読んでいるので『ミーツ・ザ・ワールド』は金原作品の中でも異質だと教えてくれた。これが面白いからといって他の作品を読むとテイストが随分違うらしい。
最近映画化されたので映画の帯が巻いてあったけど、絶対本で読んだ方がいいって確信できるぐらいめちゃくちゃ面白かった。文章が面白すぎる上手すぎる。主人公が最近婚活を始めたアラサー腐女子なので、同じような経験のある自分に刺さりまくった。自分は婚活諦めたタイプだけど、そんな私が読んでもす~~~~~~~~~~~っごい元気出る!インザメガチャーチで傷付いた子たちはこれ読むといいよ。大好きな作品! 

 

『憤死』 綿矢りさ

憤死 (河出文庫)

綿矢りさブーム到来中。この表紙とタイトルで怖い話が収録されてるの闇討ちである。表題作の『憤死』はコミカルで面白かった。『人生ゲーム』はちょっと怖くて不思議で終わり方が好きだった。

 

『それでも不安なあなたのためのクルドの話』 小倉美保

それでも不安なあなたのためのクルドの話

講演の文字起こしをブックレット化したものなので口語で書かれていて、それが良くも悪くもって感じだった。読みやすさはある一方で、全体の印象が声と文章で違う気がする。
読んでてなるほどな~と思ったのは、外国人住民が迷惑と思われてしまう背景に「年齢」があるのではないかという指摘。移民は20~30代と若く、また文化的・社会的な背景から日本人よりも子だくさん。コンビニ前でたむろしていても日本人だったら「若いから仕方ないか……」と多少我慢するのに、これが外国人だと若さの分を差し引かれずに「外国人だから」と厳しい目で見られる。子どもが三人、四人いるのも当たり前だから、少子化が進んだ日本の中ではひときわ賑やかに見えて目立つ。そしてこれは時間が解決することで、昔から移民が多く住んでいる団地では移民が40代、50代と高齢化するにつれて地域に馴染んでいった。具体例が出るとなるほどな~と思う。
この本で賛否が分かれそうだと思うのが、日本の文化をある程度移民に押し付けた方がいいという主張。例えば「女の子は学校に行かなくていい」と学校へ通わせない移民家族がいたとして、それは日本ではまかり通らないからちゃんと通わせるように「押し付ける」とか。この例だとなるほどな~と思うけど、言葉の使い方が難しいというか「郷に入っては郷に従え」と言いながらごりごりに差別しようとする人もいるので、「移民には日本の常識を押し付けていい」という言葉が一人歩きしないことを願う。

 

『いつまで続く?「女人禁制」』源淳子編著

いつまで続く「女人禁制」: 排除と差別の日本社会をたどる

めちゃめちゃめちゃめちゃめちゃ面白かった。この読みやすさとページ数でこの内容っていうのがすごい。相撲の女人禁制について読めたらいいやぐらいの気持ちで借りたけど、土俵の女人禁制に始まり、「女人禁制」を軸に日本のあらゆる差別と排除をテーマに色んな専門家が寄稿文を寄せている。女人禁制の理由とされる「ケガレ」が日本社会でどう生まれて広まったのかを知るとそんなもん今すぐやめちまえって思うし、山の女人禁制が買春と結びついていることとか、部落差別やハンセン病差別の歴史と構造とか、なかなか読めないテーマが次から次へと読めた。ちょうど最近、タイから日本へ来た12歳の女の子が人身売買被害に遭って買春が問題となっている。買う側が罰せられないことについて議論されているけど、この本の中にも売春(買春)は出て来て、買う側の意識調査の結果が載っている。これがすごく衝撃的だった。山の女人禁制、精進落とし、慰安婦問題、サラリーマンの買春旅行まで全部繋がってる。買う側を罰することへの賛否もあって私は結局どっちがいいのか結論がわからないけど、どちらにせよこの意識調査結果を見ると問題は根深くて、色々と腹立たしい。”今”読まれて欲しい本だと思った。

 

『あのころなにしてた?』綿矢りさ

あのころなにしてた?(新潮文庫)

綿矢りさが2020年に書いた日記エッセイ。新型コロナウイルスの流行直前から始まるので、忘れかけてしまった当時の空気を思い出す。エッセイというより完全に日記、なんならちょっと長めのTwitterって感じで淡々と読めるのが良かった。タイトルに「コロナ」が潜んでいることに解説で気づいた。