美術館が楽しくなりたい

 

 

二度目の「我慢のゴールデンウィーク」中、特に何かきっかけがあるでもなくふと思った。

 

 

 2020年の年始(まだコロナの足音が聞こえ始めた程度だった頃)、上野の森美術館ゴッホ展へ行った。行った理由は多分「ミーハーだから」で、入るだけですごく並んだし入ってからもすごく並んだ。並んで並んでやっと目玉の「糸杉」を見て思った。

 

ゴッホだなぁ」

 

他の人は皆、もっと熱心に一つ一つの作品を見ている。ひょっとしたら会場にいる誰よりも自分は「わかってない」んじゃないか? そんな気持ちになり、並んだ時間よりも短い滞在時間で帰路についた。

 

そんな感じだったゴッホ展から約一年半後が最初のツイートである。それからおよそ二か月、「何から手を付けたらいいのかわからない」ので手当たり次第に試してみて、試行錯誤を繰り返した。その内容と結果報告を時系列にまとめてみました。結構色々やったんだよ!

 

1.山田五郎 オトナの教養講座(Youtube

ツイートをした数日後、友人が「こんなのがあるよ」と教えてくれた。

youtu.be

山田五郎が西洋美術についてあれこれ話すYoutubeチャンネル。とっつきやすくて、アップされていた分は数日以内で全部見た。動画で出て来た絵画や内容をおさらいするために書籍も購入。

 

 

 

 

 五郎さんの二冊は動画の内容と重なる部分も多いのでおさらいするのにちょうど良い。366日の西洋美術は、載っている作品数が多いので学んだ画家の他の作品を見たり、パラパラめくって気になったのを見たりしている。すごく分厚いけど、一ページにつき一作品というのが見やすくて気に入っている。装丁も綺麗で嬉しい!

 

2.NHK文化センターの教養講座

山田五郎チャンネルを見ながら、不安に思っていることがあった。

「動画全部見終わったら、その後どうしよう…」

他に友人に勧められた「日曜美術館」「ぶらぶら美術・博物館」などのテレビ番組も録画したりしていたけれど、扱うテーマがちょっと見たいのと違う回もあって見たり見なかったりした。何か無いかな…と思っていた時、動画の概要欄でこれを見つけた。

 

www.nhk-cul.co.jp

 

4月から始まった山田五郎の教養講座。途中から受講可能で、まだ5月の回も間に合う…!というタイミングですぐに入った。各回、二時間弱で二人の画家を学ぶ。テレビや動画だったら「興味が無いから」と視聴しなかったような絵画や画家のことも学べるのが良い。ノート取りながら聴いてると、勉強してるな~!という満足感がある。

 

3.オンラインツアー

旅行会社がやっているオンラインツアーの存在はなんとなく知っていたけど、それが旅行の代替になるとは思えず、いったいどこに需要があるんだ…と思っていた。けれども。

確かに「旅行」の代替と考えると映像を見るだけのツアーは物足りない。でもYouTubeのような動画コンテンツの延長と考えると全然ありでは…??と思い、手始めにボストン美術館のツアー(JTB)とバチカンミケランジェロを学ぶ(HIS)に参加した。ボストン美術館の方はガイドの方がどんなところに注目して作品を見てるのかを教えてくれたのが個人的に学びが多く、バチカンの方は流石人気ツアーガイドと銘打ってるだけあってトークスキルがすごい!コメント欄には「ファンです!」という方もいた。面白い…。普段だったら忙しくてオンラインセミナーなんてやってないような方々だと思うので、コロナ禍ならではだと思う。その後も何度か申し込んで参加している。

 

www.jtb.co.jp

 

www.his-j.com

 

4.加藤シゲアキのSORASHIGE BOOK

試行錯誤の勉強を続けている5月末。猛烈に応援しているNEWS加藤シゲアキさんのラジオの予告がタイムラインに流れてきた。

「シゲ部長の美術館の楽しみ方」

 

あっ…………?!

 

 

この日の夜、そういえば「何をどうしたらいいのかわからない」あまりメールを出していた。タイミング的にも内容的にも間違いない、絶対あれが読まれる。物凄く緊張して放送を待った。

 

シゲ部長こんばんは。
シゲ部長は美術館に行った時の話をたまにこのラジオでしていますが、昔から美術館を楽しいと思うタイプだったのでしょうか? 私は美術館に行ってもあまり楽しいと思えなくて、それがコンプレックスなのでなんとかしたいなと思っています。
美術鑑賞はどんな風に楽しんだら良いんでしょうか?やっぱりたくさん美術館へ足を運んだ方がいいですか?何かヒントとなることがあれば教えてください。
何年か前にシゲ部長が紹介していたミュシャ展は、大きな絵が迫力があって珍しく楽しめました。

 

加藤さん「あぁ~なるほどねぇ~いやめちゃくちゃわかるな。俺も小さな頃に親に連れてかれたりしたけど、ついてけないなぁって時もいっぱいあるしね。でも絵が好きになってきたっていうのもあるし、絵を好きになりたいって思ったのはあったなぁ。『なんでこの絵が歴史的な名作って言われてるんだろう?』って知りたかったことももちろんあるけど、なんだろね〜でも…いっぱい行けば良いってもんじゃないと思うんだよね。はっきり言ってさ。

たとえば、どうしようか…。わかりやすいので言えば、僕で言うと好きだって言ってた浮世絵で言うとさ、写楽だとしようか。写楽もそんなに作品数が多くなくて、大きく分けて四期しかないんだよね。流れが。全部が均一にある訳じゃないし、どんどん変わっていくんだよね。それを美術館に行って全部覚えてるかっていうと、覚えてないの。だから逆に言えば何度も行ったりするんだけど。俺さ、好きな絵がさ、ひとつあれば良いと思うんだよね。好きな絵とか、へーって思えることとか。

なんだかんだ大きい美術展だと二時間ぐらいかかっちゃうこともあると思うんですけど、一個一個見てると大変だし疲れるし。オーディオも借りたりするんだけどそれが自分が知りたいことを全部教えてくれる訳でもないし、自分で見ながら『なんなんだろう?』って思わないといけないんだよね。

その面白ポイントっていうのは色々ある訳ですよ。僕の場合の写楽は、なんかわからないけど強烈だったんだよね。その強烈なものの正体が知りたくてずっと見てると『めちゃくちゃ変なバランスだわ』とか『なんかすごいエネルギッシュだな』みたいな、絵の力強さみたいなのが凄いなってまず思うんだよね。それで違う浮世絵を見ると、上手いけど、この上手さとは違う何かがあの写楽にはあったなとか、見たことで前のやつがわかってきたりするんだよね。そういう意味ではたくさん見た方が良いってのもわかるというか、どうすごいのか比較できるからわかりやすくなってくのはあるんだけど。その次に当時の印刷というか、浮世絵は刷ってるわけだよね。同じ作品がいっぱいあるけど、使われている顔料の豪華さとかにも気付くわけよ。『これめちゃくちゃキラキラしてんな、お金をかけて売り出したんだな』とか、そういうこともわかってきたりすると何となく注目された理由もわかってきたりする。もちろん真相かはわからないし半分ぐらいは想像だけど、それを後々わかるのでも良いから、一個でも二個でも『これ面白いな』ってものがあると良いなって思うね。

僕も最初の方はダリとかすごい好きだったから、ダリもよくわかんないんだけど『これはあれを表してる』とかダリ自身がお喋りだから言ってるんだよね。そういうのがわかると『なるほど~』って思うし、ダリもそうだけど、最初見た時になんか凄い強烈なものを受けたりするじゃない。『何これ?どうしてこの絵が描けるんだろう?』でいいんだよね。っていうのをなんか、一個でも二個でもわかってくるとね。

でも全部をね、面白がる必要なんて無い。俺も『これは考えてもわかんないな』ってものは飛ばしてくしね。疲れちゃって自分が好きなものを見つけるアンテナが萎れてくる前に、気になるものはバーって見つけたいと思う。あんまり、混んでる美術展では戻ったりしちゃいけないこともあるんだけど、とりあえずバーって見て最初から見直して戻るってこともあるしね。

だからまぁ、いいんですよ。そんなにね、全部楽しもうとする必要は無い。本当に、一個二個見つけるって気持ちで良いと思うんだよねぇ…。うん。」

 

ちょっとこれは言葉にならない…。一生の宝物になったラジオ音源です。

 

 

5.パナソニック留美術館「クールベと海」展

panasonic.co.jp

 

6月、緊急事態宣言の内容がやや緩和されて美術館が再開した。よし!行ってみよう!と選んだのがパナソニック美術館の「クールベと海」展。日曜美術館で扱っていたこと、会社に近いことが選んだ理由。正直番組を見た時点ではまだ全然ピンと来ていない。

 

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 当日は出品リストを片手に、作品を見て何か思うことがあれば○を付けて、後からノートに感想を書いた。左側のページの牛のポストカードは、クールベでも海でもないけどすごいと思った絵の一つ。この時のことを含めて、色んな気づきを最後にまとめて書きます。

 

6.本を買い足す 

 

会社帰りに寄った書店で見つけて、「ちょうどいいじゃん~!!」と思って買った。年々感じていた、とにかく教養として聖書の知識が必要問題。今読んでる途中だけど、これまで何度も挫折してきた聖書入門書と比べても視覚的にわかりやすいので入り口として良かった。ただし物凄くざっくりした内容なので人を選ぶ気がする。 

 

また、最初に買った山田五郎さんの本の中に、「まずは画集でいいので手当たり次第に見ましょう」とあったので、自分の好みがわかってきた(すごい進歩だ!!!!)タイミングで画集を追加。

 

366日 風景画をめぐる旅

366日 風景画をめぐる旅

  • 作者:海野 弘
  • パイインターナショナル
Amazon

  

 

「風景画を巡る旅」は最初の五郎さんの本を買いに行った時点で見かけて気になっていたけど、「最初から何冊も本を買うのは挫折に繋がるからダメだ…」と思ってやめておいたもの。このタイミングで、やっぱり気になると思って買い足し。インスタよりきれいな景色がたくさんあるし装丁が可愛くてときめく。

あとシスレーの画集は、「クールベと海」展で牛以外に「これすごい」と思った作品がシスレーだったこと、風景画を巡る旅にシスレーが何作か載っていてやっぱり好きだと思ったことから購入。一か月半で「好きな画家の画集を買う」ところまで来た!すごいぞ!

 

7.ブルーピリオドを読む

私宛のマシュマロが友人のところに届いており(笑)お勧めされたブルーピリオドを読みました。美大受験から始まるので主な内容は絵を描く、作品を作ることの方だけど主人公が美術館へ行った時の話がめちゃくちゃ「わかる」ッッッ!!!あと普通に漫画として面白いので夢中になって読んだ!アニメ化もすごく楽しみ!

 

 

 

(まとめ)二か月で気付いたこと、知ったこと、変わったこととか

1.絵画を見て思ったことに「正解はない」こと、「間違ってても良い」こと

五郎さんのYouTubeも、日曜美術館に出て来る専門家も、作品に対して「私はこう思うんです」と自分なりの解釈を話す。それがものすごく驚きだった。美術鑑賞は、たとえば現代文の「この時の作者の気持ちを答えなさい」という設問のように、わかる人にはわかる正解があって、そこから外れた解釈は間違っているのだと思っていた。でも私よりもずっと詳しいプロの人たちでも、各々が自由に自分なりの解釈を発信している。専門家じゃないけど、ダリはミレーの「晩鐘」を「土の中に赤ちゃんの遺体が埋まっているに違いない」と思い込んで怖がっていたというエピソードには、「そんなとんでも解釈もできるんだ…」と勇気を貰った。「画家が意図していない解釈である」という意味での「間違い」はあるかもしれないけど、素人の自分がそれを必要以上に恥ずかしがる必要は無かった。

クールベ展で、とある絵の解説に「自然の荒々しさを表現している」みたいなことが描いてあった。でも私が見ると、もっと穏やかな絵に見えた。今までなら解説が「正解」て自分が「間違い」だと捉えていたけど、今はもっと自分が感じたことを尊重できる。

 

2.見ているうちに気付くことがある

美術館にある絵は、上手いのが大前提だからどんなに上手かろうがそれは「当然のこと」だと思っていた。だからどんなに上手かろうが、「ふーん」と思っていた。でもクールベ展に行って、同じ題材を描いた色んな画家の作品を見比べると「この絵の葉っぱだけ本物みたいにキラキラしてる」とか「この牛の毛並み本当に描いてるの…!?」とか、「上手い」の中にも種類があった。あと、一人の画家の絵を時系列に追うと「上達してる…!?」とか「明らかに何かの影響を受けて変わった」とか、絵だけで何かわかることがあった。*1

 

3.美術史は後からついてくる

美術史を勉強する気は無かったけれど、色んな作品や芸術家をひとつずつ知っていくと、知ったもの同士が結びついてだんだんと「美術史」っぽくなっていく。勝手に。みんな人間なので、先人や同時代の芸術家に影響を受けたり反発したり、仲良かったり仲悪かったりする。「この絵がこの絵に影響を与えた」という前後関係とか、「この二人は同じ時代(一緒に活動してた)」とか、そういう豆知識が増えていくと大きな流れになっていく。これが美術史か…!と思った。

 

4.「実物」と「印刷(画像、テレビ)」は信じられないぐらい違って見えることがある

印刷やテレビで見てピンとこなかった作品も、実際に見ると「すごい!」と思うことがある。逆に、実物を見て「すごい!」と思った作品も、後から画像を見ても「あの作品の良さが何も伝わらない…」と愕然とすることがある。ということを知った。(もちろん程度の差はある。)牛の毛並みはポストカードサイズになるとわからないし、シスレーの海は画像になると色が全然鮮やかじゃない。でも画集を見て「うわー!きれい!」と思うこともある。余談だけど画集で「すごい!」と思った作品が「個人蔵」と描いてあった時の絶望感すごくないですか?なんて贅沢なんだ…。

 

 

 

以上が2021年5月~7月のまとめです。まだここから始まったばかり、こつこつのんびり沢山学んで、あちこち行ってみます!

 

*1:モネに出会ったとたん画が明るくなるクールベ、わかりやすい