『ソーシャルメディア・プリズム SNSはなぜヒトを過激にするのか?』クリス・ベイル
とても面白くて学びになった本。難しそうに見えるかもしれないけど、注釈で40ページぐらい使っているので本文はコンパクトだし、実験に参加した数人にスポットライトを当てているので「人」にフォーカスしやすくて内容の割にかなり読みやすい。これを読んでから、色んな事象に対して「あれはそういうことか」と関連付けて納得することも増えた。どうして私がXで言葉を投げるたびにとてつもない無力感を味わっていたのか、あるいは何故高市首相はこんなにも支持されている(ように見える)のか。タイトルのプリズムとは「屈折させる」という意味で、SNSを通じて私たちは自分や他者の「屈折した像」を見ていることを表している。副題に「なぜSNSは人を過激にするのか」と書いてあるけれど、この問いに対して「多分こういうことだろう」と自分なりの仮説を立てている人は多いと思う。私も”自分の仮説が合っていることを確かめる”ために読み始めたけど、実験結果やデータを見ると驚くほど間違っていた。私もまたプリズムで歪んだSNSを見ていて、実像を掴んでいない一人だった。
ところで、この本の中で「エコーチェンバーを壊す」という実験が出てくる。エコーチェンバーとはざっくり言うと「同じような意見ばかりを見続けてしまう環境」で、あまり良くないものとされる。「エコーチェンバーに気を付けましょう」「もっと多様な意見に触れましょう」と言われるけれど、では実際にエコーチェンバーの中にいる人にエコーチェンバー外の意見に触れさせたらどうなるか? 多くの人は「多様な意見に触れることで、違う立場の人の気持ちを考えられるようになった」とか、そういう方向で「穏健になる」ことを想像すると思う。でも実際は逆だった、というのがこの実験結果。対立意見に触れることで、保守派はより一層保守になったし、リベラルはほとんど変化がなかった。驚いたけれど、被験者のインタビューを読むと「なるほど、そういうことか……」と唸らされる。めちゃめちゃ面白いから読んで欲しい。この本を読み終わって、やっぱりXを見るのはやめようって思ったし、今後もmixi2をがんばって耕していこうと思った。
『ダイエットはやめた 私らしさを守るための決意』パク・イスル(チド)
韓国初のレギュラーサイズモデルであるイスルさんのエッセー。めっちゃわかる~~~と共感しながら読んだ。私は熱心にダイエットをしたことはないけど、時々母から「もっと痩せなきゃね(苦笑)」と言われたことがある。私がラッキーだったのは、「もっと痩せなきゃね(苦笑)」と言われても、あんまりやる気が出ないタイプだったことだ。でも、イスルさんは違う。美しくなりたい、そのためには痩せなきゃ。その願いと意志の強さがイスルさん自身を苦しめることになってしまった。摂食障害を経て「自分を愛すること」に辿り着いた後、友人とダイエットの苦しみを語り合い、「何が自分たちをここまで追い詰めたのか」と社会に目を向けた。本当にさ~~~そうなんだよな~~~~!!!韓国と日本は違う国だけど似ている。わかるわかる、日本もそうだよって頷きながら読んだ。こういう共感があるから韓国文学やエッセーを読むのが好きだ。海を越えて同じ悩みを抱えている。
この本の前書きで、イスルさんは「本を読む前に私の写真をSNS等で見ないで欲しい」「まずはこの本で私と出会って欲しい」と書いてある。実は読む前にイスルさんがどんな人なのか各SNSを検索して、なんだか上手く見つけられなくって諦めたところだった。(巻末にちゃんとアカウントが書いてあることに後から気付いた)危うく無粋なことをするところだった。そして、読み終わった後も「どんな人か見たい」という気持ちと「見てしまったら、きっとその瞬間になんらかのジャッジをしてしまう」という恐ろしさがあり、結局恐ろしさが勝って見ていない。私の中のイスルさんは、この本の文章とかわいいイラストでじゅうぶんな気がする。
『世界中で迷子になって』角田光代
作家の角田光代さんのエッセー。海外旅行がお好きということで前半は海外旅行のことをメインに書いている。序文に「自分は世界が広いということに気付くのが人よりも遅かった」と書いてあり、その内容に「どうやってそこから作家になったんだ……!?」と驚いた。さくらももこのエッセーに通じるものが少しある。親しみやすさ、くすっと笑える面白さと愛嬌を携えた文章だった。まだ角田作品は読んだことがないけど、『方舟を燃やせ』を積んでいるので、多分エッセーとのギャップに驚くんだろうな……と予想している。どれも面白かったけど、お母さんのおせちとお弁当の話は自分と重なる部分もあって胸がぎゅってなった。私の母は存命なので、元気なうちに甘えておこうと思う。あと万年筆について書いた章があって、それをきっかけに自分の万年筆を生き返らせに伊東屋へ持ち込んだ。
『台湾漫遊鉄道のふたり』楊双子
これは、この本を日本語で日本の読者が読めることに感謝しないといけない本。しかも訳がすっごく自然で読みやすくて、本当にこれって元は台湾文学なの????って混乱するほどだった。
この本は台湾の作家・楊双子さんが書いた、「日本人作家が書いた小説」という体の作品。なのでページを開くとまず主人公である青山千鶴子の『台湾漫遊録』として始まる。千鶴子のバックグラウンドもリアルで、本当に台湾の作家さんなんだよね??と繰り返し確認したくなる。千鶴子は台湾で”王千鶴”という名前の女性と出会い、作家と通訳という立場を超えた「友達」になりたがる。でも二人の間にあったのは、「作家と通訳」だけでなく「日本人と台湾人」「植民地支配した国とされた国」という立場の違い。繰り返すけれど、これは台湾の作家が書いた物語。日本人の読者として、胸に刻まなければならない言葉がたくさんあった。台湾の読者の感想をとても知りたい。
『原州通信』イ・ギホ
読書会の課題本。ユーモアたっぷりとあとがきに書いてあったけど、結構真面目に読んでしまってユーモアよりも切なさの方が勝った。あとがきを読んで、「そうかもっと笑える話として読んでいいのか」と気付いて、もう一回読み直した。どうしたら自分もこれを「笑い」として受け取れるだろう?と考えた結果、「落語にしたら面白そう」と思い付いた。雪道の中、一人二役で会話しながら歩いていくシーンも落語家がコミカルに演じ分けたら悲痛さよりもおかしさが前に出そう。そうやって、どんな落語になるか想像しながら読んだらとても面白かった。読書会でこの話をしたら、「韓国にも落語はあるんですか?」と質問した人がいて、そこから世界のお笑いの話に広がった面白かった。韓国は落語も漫才もないらしい。笑いはなかなか海外輸出されない(笑いは文脈の共有が必要だから)らしい。なるほどなあ。
『きみはポラリス』三浦しをん
友達から借りた本。三浦しをんはストーリーテリングが上手いなぁ……!!様々な形の”愛”を描いた短編集。ちょっと考え込んでしまったり、心温かくなったり、切なくなったり……。中には自分の倫理的に受け付けないものもあって、かなり混乱して揺さぶられた。ある意味読書の醍醐味。単純な好みで言うと、『春太の毎日』が一番好き! 最後まで読むと、最初に戻ってもう一度読みたくなった。
『誰のための排除アート? 不寛容と自己責任論』五十嵐太郎
自分が毎日見ている景色が、読後は全然違って見える一冊。うちの近所の図書館は「今日は○○の日」と日替わりレコメンドを置いていて、「世界寛容デー」のときにレコメンドされていた。排除アートとは(アートと呼ぶのが適切かどうかは議論があり、この本もアートと呼ぶのは反対派だけどわかりやすさ重視でタイトルに据えている)公共の場から一部の人を排除したり、人々の行動を制限するために置かれている造形物のこと。この本の中では具体例が写真付きでたくさん紹介されていて、渋谷のあれも新宿のあれも全部排除アートと呼ばれるものだった。中には、毎日横を通っていたはずなのに全く覚えていないものもあった。読み終わってから職場の周りを歩いたら、公園にあるのは全部排除ベンチだし、街路樹の周りも巧妙に座りにくいようになっていた。おしゃれに、長居できないように座りにくく、横になりにくく。いつか東京を離れて暮らす日が来たら、その時は誰でも使えるベンチがたくさんある街に住みたい。
『あのこは貴族』山内マリコ
2026年1月をもって閉館してしまったシネ・リーブル池袋で、映画版を公開初日に見たのが2020年。「こういう作品を求めてた!!」って大興奮したのを覚えている。映画を見た勢いで原作を買ったけど、積んだまま5年経過し、シネ・リーブル閉館のお知らせが届いた。最後に「さよなら上映会」と題してかつて上映した作品をいくつかリバイバル上映した。その中に……あった!!『あのこは貴族』!!最後にもう一度、思い出のシネ・リーブルで見られて本当に良かった。そして今度こそ、映画を見た勢いで原作を読破した。
映画と小説だと違うところも結構あった。特に違ったのは華子の結婚式で、確かにこのシーンを挙げて「映画より小説の方が好き」と言う人がいるのもわかる。私は映画も大好きだから、小説を読みながらも映画を思い出してしまった。私は映画が華子と逸子ちゃん、美紀と平田さんの友情を密に描いているのがすごく好きだ。そしてどちらもすごく励まされる!大好きな作品であることに変わりはない。
『四維街一号に暮らす五人』楊双子
『台湾漫遊鉄道のふたり』と同じ著者。こっちは現代の台湾を舞台に、日本式建築のシェアハウスで暮らす大学院生4人と大家さんの物語。一人一章ずつ、それぞれの視点で物語を読める。最初から面白いけど、右肩上がりに面白くなっていって最後は止められなかった。このシェアハウスの建物は実在する建物だけど、シェアハウスとして使われたことはなくて、廃墟だったのを今は再生して一般公開するらしい。ページを開くとまず間取り図があるので、ここでどんな物語が繰り広げられるんだろうって想像してわくわくした。一般公開された後は是非行きたい!この作品も、『台湾漫遊鉄道のふたり』と同じく、日本人にこそ読んで欲しい物語だと思った。もっと楊双子さんの小説を読みたい。日本で読める作品はもう読み終わってしまった。新刊情報が待ち遠しい作家さんになった。








