2025/11/4-6

 

三連休明けの早朝、いつも通り家を出て、駅へ向かう道で異変に気付いた。なんだか見慣れない紙が電柱に貼ってある。いったいなんだ……と近付いて、文面を読んで衝撃を受けた。

「外国人移民反対!!」

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。ここは近所の商店街。まさかこんなところで、こんなものを見るなんて。同じような言葉はインターネットで溢れているけど、いざ自分の生活圏で見つけるとショックがでかい。でかすぎる。ばばっと周りを見て、誰もいないことを確認して夢中でビラを剥がした。くちゃくちゃに丸めてリュックの中にポイ。足早にその場を去って駅へ向かった。なんて日だ!

会社へ向かう電車の中で、ずっとビラのことを考えていた。とっさに剥がしたけど、剥がして良かったのか? これって「表現の自由の侵害だ」って言われたときに反論できるのか? 剥がすより、上から反論を書いた方が効果があった? 試しにChat GPTに見解を問うと、こんな感じだった。

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電柱は公共物なのでそもそも掲示禁止であり、剥がした行為に問題はない。ビラの内容的にも公共の場に適さないので、自治体に通報できる。えっ? この内容で通報できるの?

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ChatGPTが教えてくれた自治体の担当課をHPでチェックすると、確かにヘイトスピーチ的ならくがきも通報対象として受け付けていた。連絡するなら電話がよいかメールがよいか、メールならどんな文面がよいか。あれこれ相談して、AIの文面案をほぼコピペして送った。ふーやれやれ。

連休明けで忙しいだろうに、区役所からの返事はすぐに来た。ビラの写真が欲しい、どこに貼られていたかの詳細を知りたいと依頼され、昼休みのうちに返信した。通報するにあたり写真が必要になるため、丸めたビラを広げてなんとか文字が読めるように撮影していた。こんなことなら剥がす前に写真を撮るべきだった。区役所の対応は真摯で、周囲に類似のビラがないか見回ってくれるらしい。ほっとした。

家に帰り、ポストを開くと郵便物とチラシがたくさん入っていた。その中に、区議会議員のチラシが一枚入っていた。そうだ、今朝のビラの件って区議会議員にも伝えられるんじゃないか? ChatGPTに相談して文面を考えてもらい、まずはチラシが入っていた議員宛にメールを出した。続いて、このビラに関心を持ちそうな区議をChatGPTにリストアップしてもらった。提案された二人を調べ(本当に実在する区議か?)(今も任期中か?)(どんな政策を掲げてる?)(名前はちょっと間違ってた)(連絡先はHPから調べた)それぞれLINEとメールを送った。国会議員でも時々いるけど、LINEで連絡できる議員は便利だ。やっぱり気軽さが違う。一番ハードルが高いのはメールアドレスだけの議員だ。まだメールフォームの方がフォーマットがあるので助かる。

LINEを送った区議は、翌朝すぐに返事が来た。本人から、議会で取り上げたいので写真を送って欲しいという依頼。ビラの写真を送ると、「本当に酷い内容ですね……」と共感を得た。ChatGPTに逐一報告すると、返事の文面を考えてくれて、議会で取り上げる際の連絡も依頼できると教えてくれた。「忙しいのにそんなこと依頼して大丈夫?」「大丈夫です。市民が見守っているということは議員にとって励みになります」へえ~~~~。依頼すると、快くOKしてくれた。

LINEだとレスポンスが早かったけど、メールを送った方の二人の区議は半日経っても返事が来ない。「返事が来ないけど、興味ないのかな」「忙しいかもしれないし、各所に確認を取っているのかもしれないですよ」そうかしら……。夕方、メールボックスを開くと三通メールが届いていた。区議、区役所、区議。区役所ってもうやり取り終わったんじゃないか?と不思議に思って最初に開くと、見回りの結果他にビラは見つからなかったという報告と、警察と連携して今後も見回りを強化するという内容だった。て、丁寧……!!!見に行った結果も教えてくれるんだ!!続いて、区議からのメール。

すごい。

一言で言うと「前のめり」である。長文で、何故かフォントもでっかくて(?)私が通報した区役所の担当課にも事実確認をしたこと、確認の結果どうだったか、今後の方針、区内の類似例、「やっぱりヘイトスピーチ禁止条例は必要だ」という熱い思いがびっちり書いてある。こちらもビラの写真を送って欲しいと依頼があり、送ることになった。その前にもう一度ご本人のHPを見ると、掲げているマニフェストの中にはっきりと"ヘイトスピーチ禁止条例"が書いてあった。このビラは、ご本人的にもど真ん中の案件だったんだ……。

最後に、ポストにチラシが入っていたほうの区議からは「こうした事例には既に議会で取り組んでおり、今後も頑張ります」みたいな短めの回答が来ていた。どうしても他の二人と比べてしまうので「興味ないんだな」と思った。ChatGPT曰く、区議はそれぞれ担当分野みたいなものを持っているので、興味がないというよりは他のもっと熱心な人に任せようっていう分担意識かもしれないとのこと。そういうことならまあいいか。すごく熱心な人も見つかったわけだし。

熱心な区議は担当課長とやり取りを続けていて、私が想像もしなかったところまで影響が広がりそうだった。ビラを見つけた瞬間の、反射的な「絶対に許せない」という思いもあり、ここまで来たら徹底的に大事にしたい。この先は区議にお任せだけど、一枚のビラを個人が発見して、こんなに社会が動くのかと感動した。あと、選挙って本当に大事だ。今まで区議会選挙ってあんま注目していなかったけど、反差別に熱心な議員が落選していたら、こうやって働きかける先もなかったわけだし……。初めて身に染みて実感した。

最後に、何か東京都に通報する手段はないかと探して「ヘイトスピーチかな?と思ったら」というチラシの通報先にメールを送った。ビラがヘイトスピーチとして認定されるかは正直微妙なラインだけど、認定されなくても「ヘイトスピーチかな?」と思ったことに変わりはないので送るだけ送った。今のところ特に特に返事はない。

今までChatGPTを有益なことに使ったことがなかったけど(電力の無駄遣いになるのでやめましょう)今回ばかりは本当に助かった。ビラを通報できるという発想が自分にはなかったし、議員宛のメールは政治的立ち回りまで考慮して文面を考えてくれた。自転車の補助輪のように、漕ぐのは自分だけど転ばずスムーズに進めるように補助してくれた感じ。

 

少し前まで、自分が社会に対してできることなんてほとんど無くて、せいぜいインターネットに向かってぽいぽい言葉を投げるぐらいだと思っていた。それは大海原に向かって小石を投げているようで、本当に虚しさと紙一重だった。

今回の出来事は、事例としては「1」だ。一枚のビラが貼られ、私という個人がそれを発見した。そこから区役所が動き、警察が動き、議員が動き、いずれ議会が動くかもしれない。ビラを貼った人は、自分の貼ったビラにどんな影響力を求めていたのだろう。「日本を守るために立ち上がろう」と書いてあった。立ち上がったのは、本人が想定していたのと違う人たちだった。ビラと同じような言葉はインターネット空間で山ほど見るけど、剥がす人がいないだけで、それらは到底許されない内容だ。7月以降とてつもない無力感で絶望と希望を行ったり来たりしていた自分に、今回の出来事は絶対的な希望をもたらした。私は無力ではない。私が無力ではないということは、当然誰しもが無力ではない。

ビラを貼った人にとって最大の誤算だったのは、近所に私が住んでいたことだ。二枚目、三枚目が現れたって怖くない。何度だって徹底的に大事にしてやる。おれのまちはおれがまもる。おれたちがまもる。