2025年10月に読み終わった本まとめ

 

『ようこそ地球さん』星新一

ようこそ地球さん(新潮文庫)

面白すぎる。最初の一編を読んだだけで、なぜ星新一が「SSの名手」と呼ばれてこれほど長く愛されているのかわかった。う、上手すぎる……。SFの世界観としてはどことなくレトロでかわいらしいけど、風刺が効いてて「これってスマホのことじゃん」って思わせたり、普遍性がすごい。人間って結局持ってる”モノ”が変わってもやってることや考えてることって変わってないんだ、みたいな。読んでて何回唸らされたかわからない。面白すぎる。上手すぎる。まだ星新一を読んだことがない人に教えてあげたい。(ほとんどみんな読んでるよ)
全部面白かったけど、特に気に入ったのは『天使考』。一文目の「天国はずっと独占事業だったので、天使たちは、しだいに役人臭をおびてきた。」から面白すぎた。この一文だけで、一瞬で頭の中を「役人っぽい天使たちが運営する天国」が駆け巡った。
今年の新潮社のプレミアムカバーで買ったので、来年もプレミアムカバーで買いたい。空色の箔押しがすっごくかわいいんだ~!

 

『この世界からは出て行くけれど』キム・チョヨプ

この世界からは出ていくけれど (ハヤカワ文庫NV)

最初に収録されている「最後のライオニ」がだ~~~~~いすき。久しぶりにぶるぶる震える読書体験だった。これは元々パンデミックSFアンソロジーへの寄稿だったらしい。アンソロジーの方も読んでみたい。

「認知空間」は生成AIのことを思い浮かべながら読んだ。AIが当たり前になったら人間の科学研究者とかはどうなるの?研究はAIにお任せ?って思ってた。AIは確かに人間よりも早く計算して答えを出せるけど、全ての人の知識や記憶を記録して永遠に残すようなことはできない。AIだけで全ての星を研究することはできないけど、人間が手分けをすれば全ての星を調べて、その先の宇宙にだっていける。人間に可能性を感じた。

 

『へこたれてなんかいられない』ジェーン・スー

へこたれてなんかいられない

買ってからしばらく寝かせてしまったけど、眠れない夜を共にしてくれた。スーさんを知ったきっかけはポッドキャスト番組だけど、軽快なおしゃべりそのままのエッセイ。元気出る~~~。

 

『モーメント・アーケード』ファン・モガ

モーメント・アーケード (韓国文学ショートショートきむふなセレクション)

SF短編小説。読書会の課題本として読んだ。め~~っちゃ好みどストライクのSFだったので同じ作者のSF短編集があれば読みたいと思った。でも、どうやら文学フリマとかで直接買うしかないっぽい? 日本在住の作家さんだったのは幸い。これからもっと本が出たらいいな!

タイトルになっている「モーメント・アーケード」とは人の記憶を売買できるヴァーチャル空間のこと。装置を通じて、記憶だけでなく感情も体験できる。現代のSNSとVRの進化版みたいな感じ。もしもモーメント・アーケードがあったら、私だったら他人の記憶は割とどうでもよくって、自分が体験した「最高の瞬間」を冷凍保存して何度もおかわりしたい。加藤さんからファンサ貰った瞬間とか、度会くんがホームラン打った瞬間とか。他人の記憶だったら、逆にホームランを打った瞬間とか(めちゃくちゃ需要ありそう)、私は一生登山しないって決めてるから登山した人の記憶を体験したいかな。あ、意外と面白そう。近しい人の記憶程、覗くのが怖いなぁ……。

 

『抑圧のアルゴリズム』

抑圧のアルゴリズム――検索エンジンは人種主義をいかに強化するか

ポリタスTVで紹介されてて気になって図書館で借りたらすごく分厚くてびびった。一言一句読むというよりはざっと目を通したって感じだけど、この分厚さを読み切ったのは結構自信になった。内容は、Googleの検索結果がいかに恣意的で、「誰のための検索結果か?」という問題提起であり、検索結果が人の思想に影響を及ぼし、重大犯罪にも繋がり得る……という実例を示す。著者が最初に疑問を抱いたのは「Black Girls(黒人の女の子)」と検索をしたとき。娘だったか姪っ子だったか忘れたけど、「黒人の女の子向けの有益な情報」を探そうとした。そうしたら、思わず彼女たちから隠したくなるような検索結果が表示された。アメリカで黒人の少女たちは性的に消費されていて、ポルノサイトばっかり上位に表示された。現在は問題が指摘され是正されているようだけど、他にも「美しい」で画像検索すると白人女性ばっかりだったり、「醜い」で検索するとこれまた特定の女性だったり。検索結果が特定の価値観を再生産するものであることに警鐘を鳴らしている。この本を読んで特に恐ろしかったのは、黒人の集う協会で銃乱射事件を起こした犯人の思想形成に検索結果が影響したのでは?という指摘。犯人は「黒人による白人への犯罪」で検索して、白人至上主義に思想が偏った、誤情報を流布するサイトを見てしまった。直接的な影響はわからないとはいえ、検索結果できちんと統計情報にアクセスできていたら違ったのでは?(犯罪統計によると、犯罪は同人種間で最も多く、白人が黒人を、黒人が白人をというのは少ない) 怖くなって、日本のGoogleで「外国人 犯罪」で検索した。とりあえず、ぱっと見でやばいサイトは出なかったから一安心……か? 他にも、私も常々問題だと思っている検索時の関連キーワードについても指摘されている。難しい本だけど読んで良かった。あ~~Google嫌い!


『となりの陰謀論』鳥谷昌幸

となりの陰謀論 (講談社現代新書)

めちゃめちゃ面白かった。アメリカでどのように陰謀論が生まれて広まったのか、なぜ人は陰謀論を信じてしまうのかとてもわかりやすく読みやすく解説されていた。インザメガチャーチの副読本として読んだけど、日本ではアメリカほど社会が引き裂かれていないのは疑似的に欲求を満たすコンテンツが多くあるかららしい。パチンコ、ゲーム、アイドルやホストクラブ、キャバクラ……。一緒くたに疑似恋愛って括られるのはちょっと違う気もするけど。そういうことで疑似的に欲求を満たしているから、非正規雇用で収入が不安定だったり剥奪感を覚えていても、日本人は幸せなまま貧しくなっていくらしい。チクチク来る。メガチャーチのすみちゃん(隅川絢子のほう)も非正規雇用で生活も苦しそうだった。私が今、すみちゃんほど推し活にずぶずぶじゃないのは、自分が正規雇用で生活が安定しているからかもしれない。もっと生活が苦しくて将来が見通せないときに、苦しい現実から目を逸らしてくれるものに縋らずにいられない気持ちはとてもよくわかる。その時に目の前にいるのが推しなのか、政治家なのか、陰謀論なのかわからないけど。

 

『ファンたちの市民社会』渡部宏樹

ファンたちの市民社会 あなたの「欲望」を深める10章 (河出新書)

無料公開されていた序文がとても良かったので期待して読んだけど、序文が割とピークだった。推し活は欲望を刺激された消費行動みたいになってるけど、自分が欲望の主体として行動しようという感じで読んだ。変にポジティブに語られる推し活よりは余程良かったかな。

 

『午後の恐竜』星新一

午後の恐竜(新潮文庫)

めちゃくちゃ良かった。「文明」をテーマに書かれたSSが複数収録されていて、同じテーマでもこんなに違う切り口で作品になるのかと唸った。星新一まじで面白すぎる。表題作である『午後の恐竜』は読み終わってから「これでタイトルが『午後の恐竜』なのお洒落すぎるだろ……」と思った。星新一凄すぎる。『エデン改造計画』はふしぎが残る終わり方だったので、ChatGPTに聞いて解釈を話し合ったりした。星新一ぐらいメジャーだとAIもかなり精度高く答えてくれる。これもプレミアムカバーを中古で買ったけど、500円でこんなに美しくて面白い本が買えたなんて破格すぎるだろ……。

 

『差別はたいてい悪意のない人がする』キム・ジヘ

差別はたいてい悪意のない人がする: 見えない排除に気づくための10章

二回目の読了。三か月かけてオンライン読書会を開いた。やっぱりこの本はす~~~~っごくいい!義務教育で読むべき!大人も全員読むべき!!私たちは「差別されない努力」ではなく「差別しない努力」を常にしないといけない。それをいくら窮屈に感じても、差別のある世の中の窮屈と差別のない世の中の窮屈とどっちがいいかって話ですよ。この本の読書会は続けていきたいなぁ。

 

『大人は泣かないと思っていた』寺地はるな

大人は泣かないと思っていた (集英社文庫)

寺地はるなさんは『水を縫う』を読んだ経験あり。大好きな小説!今作も『水を縫う』と同様に、視点を変えながら展開する連作短編集だった。九州の耳中市という架空の街を舞台に人間模様を描く。 起点となっている主人公?の時田翼は農協に努めている青年(32歳は青年に入る?)で、家族や友人、同僚へと視点が移っていく。本当に色んな人がいて、たった一人の人間の周りにもこんなに多様な価値観が存在するのだから、自分も(普段意識していないだけで)そうなんだろうな。たとえば友達とかの近しい人は自分と似た価値観だったり考え方だったりするけど、同僚や親せきや友達の家族……と人間関係をひとつ広げると全然違う価値観にぶつかる。翼は宴席のお酌に反対的な立場(お酌警察)だけど、親友のお父さんはその真逆だったり。みんなそれぞれ譲れないものがあったり、しんどかったり、幸せに感じることが違ったり。そういうことを丁寧に描く寺地はるなさんの小説はやっぱり好きだな~と思った。