2024/12/9

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ぼくたちの哲学教室 | 映画「ぼくたちの哲学教室」2023.5.27(土)ユーロスペースほか全国順次ロードショー!

映画『僕たちの哲学教室』

シネマチュプキでドキュメンタリー映画『僕たちの哲学教室』を見た。2021年の映画を「世界を届ける映画祭」という企画で再上映していた。

あらすじ

 北アイルランド、ベルファストにあるホーリークロス男子小学校。ここでは「哲学」が主要科目になっている。エルヴィス・プレスリーを愛し、威厳と愛嬌を兼ね備えたケヴィン校長は言う。「どんな意見にも価値がある」と。彼の教えのもと、子どもたちは異なる立場の意見に耳を傾けながら、自らの思考を整理し、言葉にしていく。授業に集中できない子や、喧嘩を繰り返す子には、先生たちが常に共感を示し、さりげなく対話を持ちかける。自らの内にある不安や怒り、衝動に気づき、コントロールすることが、生徒たちの身を守る何よりの武器となるとケヴィン校長は知っている。かつて暴力で問題解決を図ってきた後悔と挫折から、新たな憎しみの連鎖を生み出さないために、彼が導き出した1つの答えが哲学の授業なのだ。


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予告編を見たらすぐにわかるけど、この映画の肝は校長先生のカリスマ性にある。「小学校で哲学の授業?」と不思議に思うかもしれないけど見始めたらすぐに引き込まれる。

この映画の撮影地である北アイルランドが抱えている問題を、私は全然知らなかった。うっすらと、確かブレグジットの時に「北アイルランドもイギリスから独立しようとしている」みたいなことを聞いて「そうなのか」と思ったぐらい。その「独立しようとしている」という認識も相当良い加減だった。映画の冒頭でホーリークロス小学校のある街で起きた衝突の映像を見せられ、今も街中にある「平和の壁」と有刺鉄線、ドラッグ根絶を訴える壁画の数々を見た。ホーリークロス小学校で哲学を教えているのは、子どもたちの命を守るためだった。ドラッグと暴力が蔓延し、紛争のトラウマが世代を超えて受け継がれてしまっているこの地域では、若者の自殺率が異様に高い。哲学を教え、感情をコントロールする方法を教え、何があっても絶対に暴力を振るわないこと、対話すること、時には親の教えであっても疑問を持ち自分で考えることを教える。小学校という守られた環境から出た先で生き延びることができるように。己の身を守り、暴力の連鎖を断ち切れるように。「哲学の授業」がこの街で必要となったのは、それが生死に直結するからだった。子どもたちに生きて欲しい。そして大人になった時に「紛争を知らない世代」として真の平和を築いて欲しい。そうした祈りが授業に込められている。

映画の中で、生徒たちは時に喧嘩をしてお互いに手をあげたりする。そうした子たちは校長室に連れて行かれ、ケヴィン校長と一緒にホワイトボードに「何故そうしてしまったのか」「これからどうするべきか」等と書き出す。ケヴィン校長は生徒に質問をして考えることを促す。生徒たちから出てくる答えは、どれも一生懸命考えたもので、心からの言葉に思える。もう少し「こういう答えを先生は求めてるから」みたいな計算があるかと思った。

特に印象に残った場面を挙げようとすると、あれもこれもとたくさん出てきてしまう。その中でも選ぶなら、一つ目は喧嘩してしまった二人を呼び出して「君にとって友達とは?」と質問した場面。友達って何?じゃあ彼は友達?今は友達じゃないなら、過去は?「友達とは」という問いをまずぶつけ、その定義に当てはまるのかどうかを考えさせる。「何かあった時に守ってくれる人」と答えたら、「過去にそういうことはあった?」と更に質問する。「二人は友達なんだから」と大人の方から言ったりしない。この映画は冒頭で「怒りにを人にぶつけても良い?」という問いを生徒たちに投げかけて意見を交えさせた。「やられたらやり返さないと、やられっぱなしになる」「やられた方が、また別の人に怒りをぶつける」とお互いに思ったことをそのまま話す。それによって、子ども同士で互いに教え合い、自分の考えを深めたり改めたりする。映画を見た後にもっと知りたくてパンフレットを読んだけど、その中で「子どもたちが互いに教え合う」ことが何よりも学びになると先生は言っていた。学校教育の場で実践するのはすごく難しいだろうけど、日本でも道徳の授業なんかを通じて広まっているらしい。自分が受けた道徳の授業を全然覚えてないけど、結構変わっているんだろうか。

印象に残ったシーンの二つ目は、新型コロナウイルスによるロックダウンを経た後の授業で「この期間でインターネットで受けたいじめについて教えて」と聞いた場面。聞いててウギャーーー!!!ってなった。こんなに大事に育ててるのに、SNSやオンラインゲームで簡単に悪意が届いてしまう。しかもこういう時に届くのって「殺す」じゃなくて「自殺しろ」なんだ……。闇が深すぎる。子どもたちが聡明で、惑わされなくって良かった。

パンフレットに書いてあった、生徒の母親からの言葉に「私は常に、自分の子がいつか自殺者数として数えられてしまうことに怯えてきました」「学校では単に哲学を教えてくれただけではない。我が子に生きる術を授けてくれたのです」とあった。ホーリークロス小学校を巣立っていった子たちは今後どんな風に育っていくのだろう。彼らが教わり、身につけた哲学的考えはいつまで彼らの中に残るのだろう。哲学教室を卒業した彼らが無事に大人になれますように。

 

最後に、映画の中で紹介された「ストレスを和らげる方法」のひとつを紹介する。目を閉じて10秒間、「自分の好きな場所」を想像する。ケヴィン校長ならエルヴィス・プレスリーの家、子どもたちは「宇宙」から「マクドナルド」まで色々だった。頭の中で自分の好きな場所に行って、10秒間でどんなことができる?と想像する。私は「東京ドームでのライブ」「横浜スタジアム」が思い浮かんだ。誰でもいつでも実践できるからいいよね。みんなはどこを思い浮かべる?