「おかえりモネ」に出会えてよかった

 

ヤジロベエみたいな正しさだ

今この景色のすべてが笑ってくれるわけじゃないけど

それでもいいこれは僕の旅

 

 

2021年5月からおよそ半年間、毎朝この歌を聴きながら一日が始まった。朝ドラを毎朝見るのは「おかえりモネ」が初めてで、BUMPの主題歌目当てで見始めて、最後は作品まるごと大好きになった。BUMPが主題歌を務めたのがおかえりモネでよかった。おかえりモネの主題歌がBUMPでよかった!紅白がこんなに楽しみなのは初めてだ。ほんとにほんとに嬉しい。

 

おかえりモネを、「面白いから絶対見て!!」と人に勧められるかと言うと、一瞬考えてしまう。そもそも朝ドラは一話15分と言えど半年分あるので、その時点でかなり人を選ぶ。物語はドラマティックにわかりやすく面白いわけではないし、ドラマの作りが「ながら見」に向かない。でも、私はそういうところがめちゃくちゃ好きだった。おかえりモネの「わかりづらさ」は、視聴者の「考える力」を信じていた。台詞から読み取れない部分まで思いを馳せること、複雑な心を想像し、複雑なまま受け取ること。だって、現実の人間だってそんなに単純じゃない。矛盾するし簡単に揺らぐし、正しさはひとつではない。現実でもドラマでも同じことをずっと考えていたから、「ヤジロベエみたいな正しさだ」という最初の歌詞が毎朝禅問答のようだった。

 

あ~~~~~全然、全っ然おかえりモネの良さを伝えられる気がしない!!こんなにこんなに好きなのに!!全然上手く説明できない!!!!っていうかなんか菅波先生のことばっかり取り上げられたけどモネの良さはそこだけじゃねーーーから!!!!!!!!

怒りがわいてきた。この怒りを原動力にしたらいい記事が書ける気がする。

 

 

おかえりモネで「これは凄い」と思ったことの一つに、震災の描かれ方がある。主人公の永浦百音(ながうらももね・あだ名がモネ)は気仙沼出身で、家族や地元の人たちも気仙沼の人たちだ。2011年の東日本大震災は、ドラマの中でも根幹をなしている。「震災から10年」は2021年のキーワードだったし、モネもそれに合わせて制作された。

10年、というのは絶妙な年月だと思う。これが15年になると、震災の頃にまだ物心がついていなかった人を視聴者として想定した作りにしないといけない。10年は、視聴者の殆どがあの日を経験していることを前提にドラマを作れる。だから、地震の揺れや津波を直接見せなくても「あの日、気仙沼で何があったか」を思い出させるだけで充分視聴者に伝わる。「ながら見に向かない」と最初描いたのも、こうしたところにある。説明されないからこそ、視聴者の内側から湧き上がる記憶や感情がある。

 

 

先におかえりモネの重たい部分に触れてしまったけど、おかえりモネは全編を通して物凄く優しいドラマだと思う。それは登場人物が心優しいとかそういうことではなく、作品性として優しい。それは台詞のひとつひとつに表れていて、何度も何度も心救われた。「優しさ」に種類があるとして、おかえりモネの優しさは「肯定する」優しさだ。そしてその裏側には、とてつもない胆力がある。と感じる。

とても好きだったから、手帳にメモを取った台詞が一つある。モネが最初に就職した森林組合でとてもお世話になった、サヤカさん(夏木マリが演じた超超超かっこいい女性)が第3回で言った言葉だ。モネは「誰かの役に立ちたい」という思いがとても強い子で、切られた後は能舞台の材料となるヒバの木に「羨ましい」「切られた後も人の役に立つなんて最高だよなぁ…」と言った。

「別にモネが死ぬまで、いや、死んだ後もなーんも役に立たなくったっていいのよ」

こうした心に残る言葉が、作中のあらゆる箇所に散りばめられている。何かの記事で「まるで毎朝セラピーを受けているよう」と書いてあったのも言い得て妙だと思った。毎朝じゃぶじゃぶと心を洗濯されていた。心に残る箇所はきっと人それぞれで、そういうところもすごく好きだった。

おかえりモネは様々な立場の人たちが出て来て、その立場の違いが生む隔たりも感じさせる。でも、「それでも私たちは諦めない」と、隔たりの間を取り持とうとしている作品だと感じた。そういうところがすごく優しくて強い。

 

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おかえりモネの放送が終わる二週間前、気仙沼に行った。この機会を逃したら、東京から片道四時間はなかなか行かないと思ったから。最高の宿に泊まっておかえりモネ展に行って、美味しいご飯を食べて湾内クルーズ船に乗って。(クルーズ船では主題歌の「なないろ」がたくさん流れてて最高だった)楽しい思い出がたくさん出来た中で、ドラマの中では出てこなかった現在の気仙沼の風景が記憶に残っている。市内は古い街並みと共に真新しい建物があり、何もない更地もあった。自分の背丈よりも何倍も高い場所に津波到達点の印が貼られていた。ホテルの向かいも広い更地で、再建されたお菓子屋さんがぽつんと建っていた。ぽつんと建っていた理由は、後日そのお菓子屋さんのYoutube動画で知った。*1

夕食時、ホテルの方が「また来てくださいね。きっと街の景色も変わっていますから」と声をかけてくれた。絶対絶対また行く!おかえりモネが結んでくれたこのご縁を大切にしようと思う。

 

 

今日は大晦日紅白歌合戦でBUMPが主題歌の「なないろ」を演奏する。おかえりモネのキャストも再集合して何かあるらしい。すっごくすっごく楽しみだ! これでいよいよ「おかえりモネ」は一区切りかもしれないけど(スピンオフとかすごく待ってるけど)、今も見てるし、この先何度も何度も見返す作品だと思う。その時々の自分によって感じること、思うことが変わりそうな作品だから。自分の人生の引き出しに入れておけるような作品に出会えたことがとても嬉しい。

 

2021年最後にやり残したことはあるかな?と考えた時に、おかえりモネのことを書いていないと思ってこの記事を書いた。これで心置きなく紅白を待ち構えられる!それではよいお年を~~

 

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*1:コヤマ菓子店さんが今年の3月11日にアップした動画  ※津波映像注意。概要欄に再建までの経緯が書いてあります