最初はバラバラだった「アンコール」の声が揃った頃、暗かったステージに再び明かりが点いた。「アンコールありがとう!」の声とともにTシャツ姿に着替えたみんなが出て来る。「まだまだ楽しもうね」、そんな言葉の中で流れたイントロがあまりにも懐かしくて、隣に座る友達と一緒に「おえええ」とも「うわああ」とも取れるような変な声をあげて椅子に沈み込んだ。花道へ散ったみんなが、歌う。
さぁ、今ここに始まるメロディ溢れる夢の歌よ
空を彩る虹になって
そう強く強く 君も一緒に
We love you My Princess
アンコールが追加されたのは昨日からだった。だから初めて見た映像だったのに、何十回も、何百回もこの光景を見たことがあった。この曲を聴きながら何度夢想しただろうか。大好きなみんながドームのステージで、何万ものペンライトに囲まれて笑って歌う。
ずっとずっと見たかった。私が欲しかったのは「これ」だった。
私は、うたの☆プリンスさまっ♪のアイドルたちのファンだった。
劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム 予告編 第2弾
うたプリが映画になるというのは、それが決まった時からツイッター経由で知っていた。けれどそれが全編ライブの映画になっているというのは、公開日になってから知った。見に行った友人たちがみんな口を揃えて「見に行った方がいい」と言うので、信頼できるおたくたちが言うなら、見た方がいいに違いないと思った。本当は翌週に行く予定だったのを翌日見に行くことにして、通常上映で一回目を観に行った。一人で観に行ったので両サイドには「うたプリ詳しくないけど、評判良いから見に来てみた」という様子のジャニオタっぽい女の子たちが居て、うたプリを離れて久しい自分はむしろ彼女たちに近いのだろうか、などと考えていた。ツイッターで絶賛していたあの人もあの人も、ずっとうたプリを大好きな人たちだ。私は、どんな気持ちで見たらいいのだろう。どんな気持ちになるのだろう。もしかしたら私に「見てほしい」と言ってくれた人たちの期待を裏切るかもしれないな…そんな不安も、少なからずあった。
映画が始まってから1分も経たないうちに、隣の女子と私は明らかに違った。なんかもう、なぜだかわからないが涙が止まらないのだ。「全編ライブ」と聞いていたから、始まった映像が「ライブのオープニング映像」であることはすぐにわかった。最初は足元だけ、後姿だけだった彼らが名前と一緒に一人ずつ紹介され、懐かしいと思った。大好きだった頃と全く変わらずキラキラしていた。彼らはアイドルなのだから当たり前のことだが。
オープニング映像が終わって会場の全景が映ると、それだけで後ろからぶん殴られたような衝撃だった。ここは敢えて場所の名前を出したい。東京ドームだった。見たことのある景色の中、まだ照明で照らされる前の彼らをカメラが捉える。コンサートが始まる直前の、一瞬の緊張感。「いる」と存在を認識した直後にわっと景色が明るくなり、ライブが始まる。何度も何十回も経験していることなのに、そこに居るのがST☆RISHというだけでぼろぼろと涙が止まらなかった。特に思い入れのある彼がカメラに映る度に感情が溢れる。ずっと見たくてずっと諦めていた、私がうたプリを離れる理由にもなった、叶わなかった夢が叶った。
今から4年前、「担降りブログ」と称したものを書いて私は2011年から好きだったうたプリを離れた。その時に書いた文を一部ここに引用する。
私は「プリライ」に行ったことがない。そこにいるのは中の人で、私が好きになったアイドルたちはどこにもいない。声優のみなさんが心を砕いてアイドルたちに歌を、しぐさを寄せてくれても、こればっかりはもうどうにもならない。馬鹿みたいに頑ななオタク心を抱えて、ごめんなさいといつも思っていた。こんなに大好きなST☆RISHのコンサートになぜ行けないのか、悲しくて悲しくて泣いたこともあった。いい歳をして、だ。でも別に恥ずかしくない。それぐらい好きだった。自分の頭の中にいる、いきいきと芸能界で活躍する彼らが大好きだった。でも、彼らはどこにもいなかった。
乙女ゲームから始まったうたプリで、頑なにアイドルのファンで居ることは楽しくも苦しかった。実在しない彼らのコンサートに行きたい、そんな夢物語はドラえもんでも居ない限り絶対に叶う筈がないのに、どうしても感情的に割り切れない。そんな苦しい気持ちを最後に吐露したのが上記のブログだった。でも、今なら当時の自分にかけられる言葉がある。「夢は叶う」と。「見たかったものが見れる」と。「良かったね」、そんな気持ちだ。
そういえば、今日行った二回目のマジLOVEキングダムで、なんだか不思議な瞬間があった。最後の挨拶の後、みんなが乗り込んだフロートが宙を飛び、東京ドームの二階席までやってくる。その二階の客席から見た景色が映った瞬間に「私だ」と思った。この二階席にいるのが私だ。それまでライブビューイングを見ているような、あくまで風景だった客席が、突然自分のものになった。このペンライトが私だと指差してもいい。それぐらい自分はそこに居た。ちゃんと私は会場に居た。嬉しかった。すごくすごく嬉しかった。
さて、映画館を出てからずっと、私は彼らのために何を出来るのか考えていた。とりあえずお金を払いたいので曲を買ったし、次に見に行く予定を立ててチケットも買った。できればうたプリを好きな人は勿論、そうじゃない人にも観に行って欲しい。彼らのことをよく知らなくてもきっと楽しいし、絶対に幸せになれる。あまり言及はしなかったけどQUARTET NIGHTもHE★VENSも個性的でST☆RISHとはまた違う魅力がある。一人でも多くの人に彼らを好きになってもらい、末永くこのコンテンツが続いて欲しい。
あれ?この気持ちは、「ファン」なのだろうか。だとしたら今、私はファンで居ることが苦しくない。うたプリへの「ごめんなさい」を、今やっと捨てられた。
僕は大事に君を愛せているかい?
本編の最後に歌われた「マジLOVEキングダム」で、ST☆RISHの歌い出しがこのフレーズだった。アイドルがファンに贈る言葉はいつも真摯だ。この歌詞もまたそうで、一瞬で涙が溢れた。彼らは「大事に」ファンを愛している。その集大成がこの映画だった。私もきっと大事にされた一人だった。私も彼らを大事に愛したい。そう思える素敵な映画だった。
ありがとうマジLOVEキングダム。これからもこんな私をよろしくお願いします。
おしまい。